蛍火(ほたるび)

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「持田教授は昨晩見に来られたそうですね。わずか三年でこれだけのビオトープを作り上げるなんて本当に大したものだと、朝から会う人ごとにおっしゃっていましたよ。僕もまったく同感だ」と柏木が言った。 「ありがとうございます。実を言うと、柏木さんからうかがったお話が、この企画のヒントになったんです」 「僕の話が?」 「ええ。他の学部生(がくぶせい)共生(きょうせい)の話をされていて、通常の場合、共生というとミツバチと植物のような、お互いに利益を与えあう相利(そうり)共生を思い浮かべるけれど、一方の生物だけが利益を得る片利(へんり)共生もあるし、ヒメバチと獲物の昆虫のような寄生関係だって共生の一種だと」 「ああ、あの話か」 「ええ、それを聞いていて、人間の社会で受け入れられるのは、やっぱり相利共生だろうなって考えたんです」 「なるほど……、それにしたって、シビアな経営者を説得するのは並大抵のことではないはずだ」 「企画書の書き方なんて授業じゃ教えてくれないし、研究パートナーの企業を見つけるなんて、大学なら教授や准教授の仕事ですよね。すごい行動力だ」と、前園が感心しながら付け加えた。 「ありがとうございます」
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