蛍火(ほたるび)

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 梅雨入り前の好天に恵まれた六月二日の夕暮れ、柏木祐介は非番だった前園弘を伴って、目黒区にある有名ホテル、『翠嵐苑(すいらんえん)』で催される蛍の観賞会を訪れた。ホテルのエントランスに設けられた観賞会の受付では、東大大学院卒業の蛍研究者、澤村(みどり)が柏木達を待っていた。翠は二十八歳。白地に青の露草模様(つゆくさもよう)浴衣(ゆかた)を着た姿が、清楚(せいそ)な印象を与える。 「柏木先生、お久しぶりです」 「やあ、澤村さん、招待ありがとう。こちらがメールでお伝えした、前園君です」 「前園弘です。すみません、ちょうど非番の日に柏木さんから声をかけていただいたもので、ちゃっかりついて来てしまいました」 「いえ、もちろん大歓迎です。こちらでホタルの飼育を担当している、澤村翠です。よろしくお願いします」 「その浴衣、よく似合ってますね」と柏木が言った。
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