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〈緊急地震速報です、強い揺れに警戒して下さい。緊急地震速報です、強い揺れに警戒して下さい〉
ついに、来てしまったか。それと、もう揺れてるよ! 蓮人は反射的に自分の机の下に隠れながら胸中で叫んでしまう。
大地震の襲来である。幾度の大地震を経験してきた我が国。
それ故にマスコミは挙って「いつかは来るぞ大地震」と被害を予測し注意を喚起し続けてきた。
蓮人はテレビや雑誌で、この手のニュースを見る度に視聴率や売上のために煽るとは下衆い奴らだと気に留めることもせずに右から左に流しており実感はゼロ。
大地震があったとしても、俺が生きているうちに俺が住んでいるこの地方には来ることはないだろうと気楽に考えていたのに、これである。当然、地震に対する備えは何もしていない。
蓮人がそんなことを考えているうちに、揺れは止まった。このオフィスにいる者皆、机の下から出るなりに「地震凄かったねー」「めっちゃ怖かったねー」などと言葉を交わし合う。
蛍光灯は八割が床に落ち飛散、窓ガラスも全て割れて外の風がビュービューと。ほんの数分前までは普通のオフィスだったのに、今では風通しの良い青空オフィス。
その現実から逃避するように皆、実のない言葉を交わし合う。
それから間もなく、館内放送が流れてきた。
〈ただいま地震が発生しました。この区では震度7弱。震源は太平洋沖約約十キロメートル、深さは約十五キロメートル、マグニチュードは7.2と情報が入っております。繰り返します……〉
オフィスの惨状を見ただけで分かる未曾有の災害が起こったと言う事実。
今や全部割れて存在しない窓の下よりオフィス街を見下ろせば、我先に我先に駅へと向かう黒山の人集り。
蓮人にとって「かつて起こった大地震」ではテレビの中でしか見なかったパニックの光景。それを肉眼に収め何とも言えない心境に襲われるのみ。
内線電話を受けていた上司が、皆に述べた。
「本日は業務終了! 皆、即時帰宅!」
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