パーン・パニックス

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 蓮人が仕事を行うオフィスはビルの七階にある。普通ならばエレベーターを使って一階へと降りるのだが、まだ余震があることを考慮して使用停止となった。社員皆、階段を降りての会社ビルからの退社と言う形になる。  皆、我先に我先にと階段を降りていくためにギュウギュウ寿司詰めのパニック状態。狭い階段が朝の通勤の満員電車の車内へと姿を変えてしまう。 先導を行う警備員も「押さないで下さい! 押さないで下さい!」「走らないで下さい! 走らないで下さい!」と叫び続けるが、皆はギャースカピースカと言語化不可能な叫びを上げながら出口へと向かうのみ。 自分の命しか考えない者達には警備員の先導も届かない。  この地方でこんな大地震が起こるのは数百年前に起こった一回を除けば、史上初のこと。 毎年の初秋に行う避難訓練通りには出来ずに大パニックの様相。 避難訓練を真面目に取り組んでいない者が多いことの証左がそこにあった。 「おはし」は守れないし「おすしも」も「す」しか守れない。実際に大地震が起こればこんなものかと呆れるばかりである。  一階の階段の出口に向かって集まる姿は黒い雪崩そのもの。誰か一人でも転ぼうものなら群衆雪崩が起こり大惨事になってしまう。蓮人はそんな同僚達(かれら)には巻き込まれたくないと思い、人集りには入らずに一歩引いた場所で白けた目で(けん)に徹し、余震の危険に身を預けながら安全に降りられる機会(タイミング)を待つ。
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