パーン・パニックス

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 蓮人は瓦礫や破片の散乱する歩道を歩いていた。 車道には震災発生と同時に慌てて停車し、放置したと思しき車が蟻の行列のように停まっている。時折、それらの車を潜り抜けては消防車や救急車が走り抜けていく。少し視界を上に上げれば見えるは高架線、出勤時には電車の窓から見下ろしていた風景を退社時には自分の足で歩くことになろうとは…… 因果なものである。  すると、警察官が笛を吹きながら通行止めの誘導していることに気がついた。その後ろには壁が崩れ、鉄筋を露出したビルが虚しく聳え立つ。 倒壊の危機がある道と言うことか、回り道をしなくてはいけないな。 蓮人はやれやれと溜息を()く。 ぐうぅ…… 腹の虫が鳴った。時計を見れば、本来ならば「おやつ」で姑息的に夕食までの空腹を補っている時間である。コンビニで軽いものでも買うことにしよう。 蓮人は目についたコンビニに足を踏み入れた。そこにあったのは食料品と日用品の棚がカラになった空白たる空間。 震災が起これば、物がなくなる。皆、我先に我先にと買い求めるのだから当然である。  震災発生から数時間でコンビニがこうなるのも仕方ない。コンビニ店員もカラになった棚を見て呆然とする蓮人に気が付き、申し訳無さそうに頭を下げた。 コンビニを後にした蓮人は自動販売機を見つけた。茶腹も一時とは言うが、腹に入れない時よりはマシだろう。そう思いながら自動販売機を見てみれば、全てのボタンに「売切」のランプが虚しくこうこうと輝いていた。こう言った災害時には自動販売機は無料(タダ)になると言う。おそらくはここを通りかかった者が皆取っていったのだろう。 「お腹空いたなぁ……」 悄然とした気持ちに、空腹が重なると足取りも重くなる。蓮人は食べ物か飲み物かを探し歩くも、通りがかるコンビニもスーパーも棚はカラ。飲食店も一足早い看板。  このまま家に歩くまで腹が保つだろうか…… そんな不安が頭の片隅に過った瞬間、ガラスが激しく割れる音が辺りに響き渡る。  蓮人は思わずに音のした方向へと駆け寄ってしまう。そこは今や極めて珍しいローカルコンビニ。大手コンビニチェーンのドミナント戦略に奇跡的に呑み込まれずにいる店舗である。 貧すれば鈍する。普通の人も震災後の大破局(カタストロフ)を経て、火事場泥棒に身を落としたとでも言うのだろうか。蓮人がそんな想像をしながらコンビニを覗き込むと、それを遥かに凌駕する光景が広がっていた。
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