パーン・パニックス

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「うあああーっ!」 蓮人が死を覚悟した瞬間、プシュ! と、言う軽い音が耳に入ってきた。虎の尻には耳掻きの梵天を思わせる尾羽根のついた「何か」が刺さる。あれはなんだろうか……? 蓮人はそれが「麻酔弾」であることは知らない。生まれて初めて見るもの故に当然である。 虎は尻に痛みを与えたと思しき麻酔弾を目視で確認すると共に、視界が黒く染まっていき、その場でバタンと倒れてしまった。その刹那、猟銃を構えたツナギの男が蓮人に向かって駆け寄ってくる。 「間に合ってよかった! 怪我の方は!?」 「えぇ…… ああ…… その……」 蓮人はすっかり前後不覚の恐慌(パニック)状態。ツナギの男は体勢を低くし、蓮人の頬を軽く数度叩くと、頬の痛みを呼び水にしてやっとのことで正気を取り戻した。 「あ…… 一体?」 「良かった。実は動物園から虎が逃げ出したんだ。この地震で檻が壊れてな。我々飼育員一同必死に追ってたわけだ」 震災のデマじゃなくて、本当に逃げることもあるのか…… 全く、いい加減にして欲しい。 蓮人がそんなことを考えているうちに虎は近くに停められたトラックに乗せられていく。ツナギの男も蓮人に「お騒がせしました」と謝罪を行った後、トラックの助手席に乗り走り去っていくのであった。 長い人生の中でまさか虎に襲われる経験をすることになるとは…… 末代まで語れるいいネタになりそうだ(怖かったけど)。それにしても、虎に襲われて生き残ることが出来た俺は何という運の良さだろうか。 地震と虎に襲われて生き残るとは何たる豪運。蓮人は自分はまだ当分は死ぬことはないだろうと自信を持つのであった。
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