パーン・パニックス

9/11
前へ
/11ページ
次へ
 コンビニを後にした蓮人は夕焼け空に染まる帰路を只管に歩いていた。店員から一緒に避難所に行くことを勧められたのだが、家が心配であったために一緒に行かずに帰路に就いているのである。  そして辿り着いたは住宅街。この辺りも激しく揺れたのか、道路は隆起や陥没で見る影もない。居並ぶ家屋も潰れているものもあれば、倒壊の危険性が高いのか「危険」の張り紙が玄関に貼られている家屋が殆ど。その住宅街の片隅に蓮人の家がある。 そこに向かう道中、電信柱が僅かに倒れ撓んだ電線の上でカラスがカーカーと鳴く。 普段なら鬱陶しい筈のカラスも虎に襲われた後ならば可愛いもの。醜い鳴き声も吠える虎の咆哮に比べれば迦陵頻伽の歌声にさえ思えてくる。 蓮人の家はものの見事に全壊していた。独身ながらに結婚に備えて購入したマイホームが瓦礫の山と化していたのである。ローンも後35年…… 人間、絶望的な状況になると嘆くよりも笑いがこみ上げてくるもの。 「家はなくとも、命はある。生きなきゃどうにもならないんだ」と、蓮人は半笑いを浮かべながら述べた。今は嘆いても仕方ない。とりあえず、避難所に行かなくては。 「選挙以外で小学校に行くことになるとはな」 蓮人は避難所がある近所の小学校まで歩き始めるのであった……
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加