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空白を満たしなさい。
これはアラビアの昔話。男が一人死にました。息子は三人、11頭のロバを父の遺言通りに分けることになりました。長男に1/2、次男に1/4、三男に1/6。割り切れません。
ロバを切り刻むわけにもいかず困っていると、ロバに乗った一人の賢者がやってきました。「では、私のロバを貸してあげよう」
12匹のロバの1/2は6頭、1/4は3頭、1/6は2頭。遺言通りに、11頭のロバは兄弟に分けられました。
「じゃあ私のロバは返してもらうよ」賢者はロバに乗って去って行きました。
数字マジック。解けない問題が、たった一つ何かを追加することで、平和が訪れる。
空白を満たしなさい。
これは私が10歳の時読んだ「見えない転校生」というお話。
問題を抱えた小学校のAクラス。担任の先生が、「新しい転校生を紹介します」と言って紹介したのは、作り話の見えない転校生。先生は存在しないB君に話しかけ、勝手に返事をして、空いていた席をB君の席と決めてしまい、あたかもいるようにお芝居を続けます。
初めは驚いていた生徒たちも、だんだん面白くなってきて、勝手にB君に話しかけ、返事を受けたようにお芝居をしたり、内緒の打ち明け話をして楽しみだしました。
ある日の学校祭の決め事に、普段無口なC子が珍しく手を上げて意見を言います。そして自分の意見を言ったあと、「B君もおんなじ意見だって言ってました」と言ったのです。
それ以来、あらゆるところで「B君はこう言った」と語られ、今まで黙っていた子達が発言するようになり、たくさんの問題が解決しAクラスに平和が訪れます。
やがて担任の先生は「今日でB君はこのクラスからさよならします」と告げ、“B君がいる”というお芝居は終わります。子どもたちの心に素敵な思い出を残して。
この話を読見終わって、私は恐怖で固まりました。気づいてしまったからです。
「これ神様のことだ。神様は人間の作った都合のいい作り話で、本当は居ないんだ」
神様なんていない。あると信じて安心していたものが、無い!
ぽっかり空いた不安の穴をどうやって埋めれば良いのでしょう。
空白を満たしなさい。
大人になって社会との軋轢に悩み、クリスチャンだったことがあります。心の空白を歴史のある宗教(信用できそう)で埋められると信じて洗礼を受けました。
常に何かを求め、飢える“心の穴”を“神の座”と宗教家は言います。人間は生まれつき神を求めるように作られている。それこそ神が人間を作った証拠だと。
信じているうちは幸せでした。(何も考えなくて良いから、楽なのです)
でもそのうち綻びが広がる、嘘というのはいつか暴かれます。オウム真理教のように。
そうやって心の穴は次の神、新しい物語を探して彷徨いだします。人の心は、世界を物語で捉えている。だから、あらゆる神話・宗教は物語で作られる。神は物語と言う形で、この世に存在しているのです。
そして、この世に存在するあらゆる物語は全て、たかが人間の作った嘘っぱち。
今は世界の全てに思える「正しい価値観の物語」が、明日には、一年後には、10年後には、1000年後には「そんな事もあったよね」と昔話になってこの世から消えていくのです。
誰もが好きなサンタクロースの物語。大人たちはよってたかって、巧妙に子供に嘘の話を信じ込ませます。(なにしろネット上に、今サンタがどこを飛んでいるかGPSで表示されるんですよ?)
やがて子供達は気付きます。全ては嘘で、自分は大人に騙されていたのだと。
けれどもその嘘が、あまりにも素敵で楽しくて……1日でも、1分でも長く本当だと信じていたかったと涙を流すのです。
そして気づくのです。「今真実と教え込まれていることは、ただの作り話かもしれない。自分は騙されている可能性がある」
ずるい大人に騙されないようにしようね、子供達。
でも、今の大人も昔子供でした。そうして嘘を信じて泣いたのです。
それでもサンタの物語は無くならない。
だって、大人は知ってるから。現実の中にあれを超えるような素晴らしい物語は存在してないことを。
子供達を喜ばせるために大人が用意できるのは、やがて涙と共に消えてしまう儚い物語しかないことを。楽しい嘘しか子供に与えてやれない、大人なんて非力で情けないものなんです。
物語は嘘なのです。初めっから本当では無い、やがて消えてしまう嘘なのです。
だから空白を満たしなさい。好きな物語で満たしなさい。
なんでも結構。空白が埋まれば、嫌なことを忘れられれば。
欠けたところに、もう一つ何かを足して埋めれば、心の平和が訪れる。
これこそが神、宗教の本質。
今ある物語に飽きたなら、次のを探せば良いだけのこと。
キリストでも、アラーでも、スターウォーズでも、ハリーポッターでも、鬼滅の刃でも、ガンダムでも、異世界転生でも。一番好きな物語で空白を満たしなさい。
この世で一番幸せな人間は、大好きな世界に浸る“オタク”なのです。
――異世界転生物語を紡いでいるあなた。あなたは今、それを読む者のために、“神”を作ろうとしているのです。
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