ライター

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 しかし、「お疲れ。おぉ、ここに勤めてるんだ」と数日後に退勤を狙って会社の前にいたのが恐ろしく怖かった。気のせいかもしれないが“子供の頃の粘着質なイジメ”のような気持ち悪さに僕は言葉が出ない。 「飲みに行こ。パンが食べたい。ほら、〇〇珈琲店」  変な威圧感はない。出会った時のような良い感じの距離感覚。とはいえ、気を許したら同じことをされると思った僕は「いいよ。でも、しつこいのは嫌いだから」と少し注意してみる。 「……わかった。あの時は悪かったよ。なんか幼い頃に怪我させた人に似てたから。腕か眉の上か」  井瀬の謝罪するような自信なさげな声に僕は首を捻る。確かに怪我をしたが痕はの残らず、あまり気にしてない。  確か“学校のやんちゃな子に石をたまたま投げられ切った”だけ。  僕を無意識に額に手を添える仕草に「ごめん、痛かったろ」と井瀬の手が伸びる。それを咄嗟に弾いてしまい場が白け、生活音がいつもより大きく聞こえた。 「思い出した。井瀬って小学生の頃の?」 「それ。石投げて遊んでた時にお前に当たって瞼だっけ……切れて酷く怒られた。最悪の場合、目が見えなくなるとか言われて罪悪感が残って引っ越した。おかげで家族は崩壊……散々な目にあったよ」  ハッと気張らすようにわざと笑うや空を見て溜め息。井瀬の僕と向き合う表情は罪悪感と後悔でいっぱいなのか“離れないでくれ”と言っているように見えた。 「……もしかして、狙って階段でぶつかった?」 「いや、アレはたまたま。オープンするカフェに向かってた時によそ見してただけ」 「そうなの?」 「お前、わざとだと思ってるだろ」 「だって、井瀬って……すごい悪ガキだった気がするし」  小学生の頃のやんちゃなイメージと今の清楚で落ち着きのあるイメージの酷い温度差に僕がもやもやしていると「あのな、いろんなことあれば代わるって嫌でも」と嫌そうな井瀬の声。 「あの……家に来る? 電車で三つぐらい乗ったところの駅から少し歩いたところにあるマンションだけど」  話が切れなさそうに感じた僕は家に行こうと誘うも「嫌だろ。気を遣わなくていい」と猪瀬は軽くて振り身振りをしては「食べる気失せた。帰るわ」と手を振りながら夜の街に消えていった。
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