<1>心理カウンセラーの町田園子、ポン太と汚部屋で再会。

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「心の中で数字を数えるのだぞ。よいか?いーち、にーい、さーん、しーい、ごー……」  口にかなり乱暴に突っ込まれた吸引口を前歯で支え一気に吸い込む。 「どうじゃ?」 「ありがとう、効いてきたかも」  吸引薬の苦い味、小さいころからこの味に慣れ親しんできたせいか、苦みを感じたら呼吸は次第に落ち着いてくる。  もうぜんそくは完治している。でも心のバランスが崩れたら帳尻を合わせるように呼吸困難になる。心因性のぜんそくの特徴。心理カウンセラーとして自己分析できても何の特もありはしない。己の弱さを抱えつつ人の悩みに向き合う。この矛盾は常につきまとうものだから、カウンセラーはチームでクライエントに当たるんだ。  そうじゃないと、自分の心が壊れてしまうから。 「よかった、シクレソニドが効いたようじゃな」 「そりゃあ効くよ。まあまあ強いんだから、その薬」  体を起こそうとして心臓の辺りがぎりぎりと痛み、全身をひやりとした血液が駆け巡る。  くらっとめまいを感じて床にひじをついた。 「無理をするでない、寝ておれ」  うん……って。  あれ?  私の顔の真正面、文字どおり鼻を突き合わせる位置に丸っこい鼻面。
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