<1>心理カウンセラーの町田園子、ポン太と汚部屋で再会。

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 桃色の毛並みのタヌキ。ただし、縫いぐるみ。  ふわふわだった名残は微かに大きな尻尾の辺りに残ってるくらいで、うら寂しい風情のへたり具合。ゴミ?って判断されて真っ先に処分されるレベル。 「ポン太……」 「おお、名前を覚えておったのか。なかなか記憶力がよろしい。園子は大学院まで進んで立派な仕事をしていると貴文が自慢しておったのじゃぞ。町田家の誇りだと」  町田貴文。それがおじさんの名前だったな……そうだ、町役場に行って書類もらってくるんだった。  ぼんやりしたまま目の前のタヌキ面に向き合い、私はぱしっと顔を両手で叩いた。 「疲れている。ポン太とおじさんの思い出話しているっていう妄想、これはまずい傾向」  私は体を起こしてバッグからスマホを取った。  時間はまだ三時。町役場の窓口は開いてる。朝、この家の片づけを始める前に立ち合いという名目で監視に来ていた、ひょろっと背が高い若者の名刺を取り出す。  電話をかけてから予約して行かないとね。 「出かけるのか?平気なのか?」 「平気だよ、もう薬が効いてるし。そもそも心因性のぜんそくなんだもん……」  もふもふっとしたものが私の額をぺしっと叩いた。
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