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泥棒
俺が小学三年のある日のことだった。
平日の午後は母がパートに出ているため、学校から帰ると祖母と二人きりだった。
「陽太、おばあちゃん買い物に行くけど、一緒に来るかい?」
リビングルームでゲームをしていると、祖母に声をかけられた。
祖母は俺に甘いので、一緒に行けば必ずお菓子を買ってくれる。でも、その時はやりかけのゲームが面白くて、そっちに夢中になっていた。
「ううん。僕、留守番してる」
「そうかい。それじゃ、鍵掛けて行くから、留守番よろしくね」
そう言って祖母は出かけていった。
それからしばらくして、ゲームをクリアした俺は、祖母が用意してくれていたお菓子を食べながら買ってもらった漫画雑誌の『コミコミコミック』を見ていた。
ガチャ──
玄関のドアの鍵が回り、それからドアが開く音がした。
(おばあちゃん、早いな)
そう思ったのを覚えている。しかし迎えに出ることはせず、漫画を読みながらボリボリとスナック菓子を食べていた。
(あれ?)
しばらくして現実に戻った俺は思う。
祖母が帰ってきたなら、買い物袋を下げてすぐリビングを通り、キッチンに向かうはずだ。しかし、祖母の声はしない。
その時、背後に人の気配を感じて俺は振り返った。
振り向くと、そこには祖母ではなく、見知らぬ男が立っていた──。
俺は驚いて固まった。ソファに座っている子供の俺から見たら、それは大きな男に見えた。黒い服を着ていたのは覚えている。
男は空き巣だったのかもしれない。まさか家に誰かいるとは思わなかったのだろう。男も驚いて俺を見下ろしていた。
しばらくの沈黙のあと、俺は叫びそうになった。
「おとなしくしろ。騒がなければ、何もしない」
男はそう言った。
俺の頭はパニックで真っ白になった──。
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