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恵礼奈
俺が二十三になった頃、綾さんは俺とは別の店でホールのチーフをしていた。そして俺の店には恵礼奈というフリーターの女の子が入ってきた。
二十歳の恵礼奈は小悪魔的な子で、バイトの男子同士が彼女を巡って小さなトラブルを起こすようになっていた。
当の本人も困っているようで、ある日相談があると言われ、恵礼奈行きつけの深夜営業の店に誘われた。長時間話を聞かされ、店主に勧められるまま飲んで、俺は珍しく酔ってしまった。
そして次に気付いたのは翌朝。ラブホテルのベッドで恵礼奈と二人、真っ裸で眠っていた。
「こんなつもりはなかった……」
俺はしどろもどろに言い訳をした。
しかし恵礼奈は、「嬉しい!ずっと店長が好きだったの」と俺に縋りついてきた。
過ちを犯したとはいえ、俺は綾さんが好きだった。綾さんと結婚したかった。
その日以降、俺は付きまとう恵礼奈から逃げ回っていたが、ある日、突然真剣な顔で告げられた。
「赤ちゃんができた。店長の子よ。責任取ってください」
俺は絶望した。どうしたらいいのかわからず、綾さんにも黙っていた。
しかしこのことはすぐに会社で噂になり、責任を取って俺は恵礼奈と結婚することになった。
不甲斐ない俺は綾さんに謝ることもできず、彼女はひっそりと会社を辞めて田舎へ帰った。
入籍し、娘が生まれた。恵礼奈の希望で、聖花と名付けた。
綾さんのことは忘れ、可愛い娘のために頑張ろう、俺はそう気持ちを切り替えようとした。
しかし、結婚生活は散々だった。恵礼奈は専業主婦のくせに、家事も育児も中途半端だった。近くに住む俺の母に聖花を預けて、長いこと家を開けることもあった。
ある時、俺は仕事の途中で熱が出て具合が悪くなり、副店長にあとを頼んで早退した。
ところが家に帰ると恵礼奈がアパートに男を連れ込んでいた。水商売風の男だった。
聖花は浮気の最中も同じ部屋のベビーベッドに寝かされていた。俺は怒って男を追い返し、恵礼奈と口論になった。
男は聖人という売れないホストだった。名前に引っかかった。
聖花のことは可愛かったが、俺はたまりかねて離婚を口にした。娘は俺が一人で育てる覚悟だった。
ところが──。
恵礼奈は托卵を告白した。聖花はホストの聖人との間の子だったのだ。男の名前を聞いてもしやとは思っていたが、その後受けたDNA鑑定で俺の子じゃないことは証明された。
親子関係不存在確認という訴えが認められ、恵礼奈有責で離婚できることになった。
けれども聖花に情が湧いていた俺は、恵礼奈と聖人からの慰謝料はなしで離婚した。
恵礼奈は聖花を連れて家を出ていった。
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