祖母の死

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祖母の死

 妻に裏切られ、我が子と信じて可愛がっていた娘も失い俺の生活は荒れた。  無断欠勤を繰り返して会社をクビになり、部屋で飲んだくれた。そろそろ金も尽きようとしていた。 「どこで間違えたんだ?」  俺は独り愚痴る。  あんなに幸せだった幼少期。俺の人生はどこで曲がってしまったんだろう?  やっぱりあの時か──。  泥棒が入ったあの日から、俺と家族の運命は狂ってしまったんだ。あの事件でばあさんの頭がおかしくなったせいだ──。  俺は酔って眠りにつきながら、家族に囲まれ幸せだった子供の頃を思い出した。  そのせいか、ふと夢を見た。あの、泥棒に入られた日の夢だ。  でも……。なぜか夢の中の俺は犯人側に立ち子供の俺を見ていて、やはり犯人の顔はわからなかった。  数日後、母から電話があった。  離婚の理由を知った母は、孫がいなくなったことを哀しみ、そして俺を心配してくれた。今でも、何日に一度か電話をくれる。  しかしその日の電話は違った。 「施設のおばあちゃんが亡くなったって、父さんから連絡があった。明日が告別式だから、行こう」 「なんで、あんなババアの葬儀なんか……」  俺は吐き捨てた。  しかし母は、「私だって、おばあちゃんを恨んだこともあったよ。でも今は違うの」と話し出した。 「家族仲良く暮らした時もあったでしょ。それがこうなったのは誰のせいでもない。自分の選択ミスだったのかもって思うの。もっとおばあちゃんに寄り添えば、認知症も進まなかったかもしれない。お父さんとの間も、愚痴ばかり言わずできることはあったかもしれない」  母は続けた。 「そう、人生は自分で動かなきゃだめ。誰のせいでもない、自分で変えるしかないんだよ」  これまでの人生を母も悩み考えていたんだろう。  参列しようと母に強く言われて俺は喪服を引っ張り出し、翌日、渋々母との待ち合わせ場所へ向かった。  葬儀の会場は昔住んでいた家の近くの葬儀場だった。  隣町に住んでいながら、この町に足を向けることはなく、久しぶりで懐かしかった。  喪主席に座る父と見知った顔の親戚達。俺と母は一般会葬者としての列に並んだ。父も母と同様再婚せず、独り身のままだった。  俺と母の番になり、祭壇の前に立つ。遺影の写真は、優しかった頃の笑顔の祖母だ。 ── ばあちゃん、あんたも悪気があったわけじゃないんだろうけど、お陰で散々な人生だよ。あんたも支えだったお鈴を盗まれて、おかしくなっちまったんだろうけどさ。成仏しろよ──  手を合わせてそう心で祈った。  父は母と俺を見て何か言いたそうだったが、そのまま棺と共に火葬場へ向かい、俺達はそれを見送った。
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