変化

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変化

「よお、陽太!」  運転席の窓が開いて、声をかけられ驚いた。  父だった。 「あら、どうしたの?」  助手席には母、そして後部座席には亡くなったはずの祖母が元気な様子でにこにこ笑っていた。 「ええっ! どういうこと?」  俺はパニックになった。 「どういうことはこっちよ! 綾さんは? まさか置いてきたの? 臨月なんだから、一人にしては可哀想よ」 「綾? 綾って誰?」 「お前、大丈夫か?」  父が心配そうに言う。 「親父こそどうして……」 「ん? もうすぐばあちゃんの誕生日だからな、ちょっと三人でドライブして昼飯食ってきた」  母も祖母も楽しかったと笑っている。 「こんなことなら、陽太と綾ちゃんも呼べばよかったねえ」  祖母が残念そうに言う。 「綾って俺の嫁さん?」  俺は馬鹿みたいなことを聞く。 「お前大丈夫か? 可愛い嫁さんの名前忘れたのか?」  父が笑う。 「じゃあさ、二人は離婚してなくて、ばあちゃんは認知症じゃないんだな?」  俺が確かめると母が、「あなた、やっぱりこの子変よ。病院に……」と心配そうに言う。 「いや、大丈夫。ところで、俺の家ってどこだっけ?」  念のため確認する。 「それは松川町(まつかわちょう)の──」  母の答えを遮って、「あ、それは変わってないのか。じゃあまた!」と答えて手を上げると、俺は我が家に走り出した。
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