隕石か?

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隕石か?

 西暦3000年1月    きっと、核戦争が起きて、こんな頃にはもう地球は壊滅しているだろうと2024年頃には多くの人がそんな風に思っていたという文献が残っている。  だが、信じられないことに、地球上の政治家たちも存外ダメな奴ばかりではなかったようだ。  西暦はめでたく3000年の新年を迎えることになった。  だが、今、地球上はパニックに陥る人々であふれている。  MASAが発表した見解によると、3000年10月頃に、地球に隕石がぶつかるという。  それも地球よりも大きな隕石なので、地球が木っ端みじんになるそうだ。  そのニュースは、止めることができず、世界中に流れてしまった。  ただし、ニュースでは、各国の政府が責任をもって全員を月と火星に移住させることが決まっていると報道した。  もちろん、この報道は政府が脅して流させたものである。  2083年には月までの定期便が出ていたし、月のドームに移住している人たちは100万人以上になった。  ただ、残念なことにまだ一部の上流階級しか移住できていない。  政府は、もちろん本気で世界規模での移住をはじめようとしていた。  月には緊急避難用のドームを期間内にできるだけの数を建てることにした。  ただ、月だけでは地球に残った人全員は入りきれない。  更には、まだ開発途中ではあるが、作業員が過ごせるほどの規模の地下を掘れている火星の地下を大急ぎで掘り進めようという計画だ。  だが、工事がどの程度進むのか大体の予測はできたが、全員が移住できるという保証ができなかったので細かい情報はまだ一般の人たちには流せなかった。    政府官僚に至っても関係省庁以外の人たちには機密に動いていたので、パニックはまず、政府官僚から起き始めた。  『自分たちは重要なポストにいるのだから、優先的に移住させてくれないと各国の住民たちの収拾がつかない。』  というのがその表立った理由だったが、実際の所、自分と自分の家族がいち早く地球から離れたいのが本当の気持ちだった。  政府官僚のパニックは次に大規模な会社の社長たちに広がった。  家族は既に月に移住している社長たちも多かったが、優秀な人材を多数抱えているので、その人材だけでも優先的に、月に移住させてほしいと政府に訴えかけた。  そんな社長たちのパニックは社員にも広がっていく。 『大規模な会社にいるのだから、きっと優先的に移住させてもらえるはずだ。』  次長、部長、課長、係長たちの間で醜い争いが起こり始めた。 『長い目で見たら、現在の課長クラスが一番先に逃げないと、会社の風通しが悪くなるから、年よりは最後に回れ。』  だの、 『一番家族の多い家から逃げないと、人類の存続にかかわる。』  という子だくさんの係長クラスの意見などで、毎日会社の仕事どころではなく、上層部は日々喧嘩を詩に会社に行っているような状態に陥った。  一般の市民の中でも、地位が高いものほど、パニックに陥り、毎日の生活がまともに送れないほど、バタバタと過ごす羽目になった。  そんななかで、仕事を持たないホームレスや、親から見放された子供たちは何となく、これまでと同じ生活を送っていた。 『多分、移送される中に自分たちは入れないだろう。』  と考える者。 『毎日のご飯がお腹いっぱい食べられるように今日も頑張ろう。』  と考える者。  結局のところ、あまり望みを多く持たない人たちはパニックにならずに冷静に日々の生活を送っていたのだった。  政府が真先に移送したのは、そう言った、今、仕事を持たない人たちだった。  何といっても移住先での建築をする人の人数が足りないのだ。  世界中から、仕事のない人達が集められ、月や火星に送られて行った。  パニックにもなっていなかったし、仕事を貰えると言う事だったので、周囲の仕事のない人も誘って、地球上から一番先に消えていった。  建築が進んだ月には、4月ごろに、政府官僚とその家族が移住されて行った。  建築が半分ほど終わった6月頃には、ノアの箱舟宜しく、地球上のありとあらゆる動物のつがいが移住された。  彼らは新たには産まれがたい物であるので、保護しなくてはいけないからだった。  動物の居住区は気温差の激しい火星では生存の保証が難しかったのでやはり月の専用ドームに移住された。  おかげで月に住む人たちはわざわざ地球の動物園まで行かなくても動物が見られるようになった。  8月ともなると、一般市民も騒ぎだした。  既に勤めている会社は機能しなくなり、家族のいる人たちは大騒ぎを始めていた。毎日デモに出かけ、声をからし、頭は既に真っ白だった。  だが、その間にも医療従事者、保育士、などは優先的に移住が進んでいた。  家族のいる者は家族も一緒に。  こちらは、月にはすでにある職種なので、火星の厳しい条件の方に移住が決まっていたが、木っ端みじんになる地球にいるよりはましである。  6月ごろから見え始めていた隕石が9月になると、地球のどの角度からも確認できるようになり、人々は毎日家に引きこもって、デモも行われなくなっていた。  もう、パニックの時期は去った。  心静かに家族と家で過ごす者。  一人ですきな音楽を聴いて過ごす者。  レストランでは一時期店を閉めていたが、最後の晩餐とばかりに、自分の腕を振るって、毎晩値段に見合わあないような食事を出してくれる店もあった。  移住に間に合わなかった人たちは心静かに最後の時を待つことにしたのだ。    さて、MASAが発表した3000年10月。  激しい轟音と、地球の一部地域を巻き込むような風が吹き、地球が揺れた。  皆、最後の日だと思い、隕石が迫ってくるのを見ていた。  が・・・隕石はその轟音と共に地球の100Kmほど横を通り抜けていったのだった。  MASAの計算に宇宙を移動する間の誤差も含まれてはいたのだが、隕石が大きすぎて、誤差が大きくなっていたのだった。  しばらく隕石の影で電波に問題があった地球上の電波は一気に解消され、報道局関係者は急いで報道局に戻り地球が無事だった旨のニュースを流した。  地球は助かったのだ。  残された動物も、人間も、歴史的建造物も、全てが助かったのだ。  政府は、残された人たちは、元あった会社で働けるよう手続きをとるように会社の責任者に連絡を取り、移住した人は戻りたければ地球に戻っても良いこととした。  しかし、この先の事を考えると、地球には戻りたくないと考える移住者が多く、月と火星、それと地球で人類は別れて暮らすようになった。  地球は、大分人口が減ったので、以前よりも二酸化炭素が減り、ますます宇宙で青く輝く星となった。  それぞれの星で地球人たちは安定した生活を営めるように努力をした。    月のかぐや姫の一行や、火星に住む火星人たちは、地球人のあまりの増加ぶりにパニックを起こし、近々地球政府に交渉を持ちかける予定である。 【了】        
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