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「ありがとうございました! またどうぞ……ヴ、んん??」
お客さんの差し出したスマホをどう受けても、機械は変なピー音を上げる。
「ちょっとぉ、もうすぐ昼休み終わっちゃうよ」
「キャッシュレス、使えないの?」
あたしがバイトしているこのラーメン屋「ひまり」は、近くに大きな会社がいくつかあって、お昼はたいそう賑わう。結構並んで待ってから食べてもらって、いつもならその感謝を込めた笑顔で送り出すことで完結。……が、今日はその一歩手前のお会計でこの事態。
顔を上げれば、最後が見えないくらいものすごい列が。で。
「現金持ってないよ~。どおすんの?」といった、あたしに解決不可能な難題を吹っかけてくる。
「え、え~と。え~と……」
配膳係。レジ係。これまでそれをしくじったことはない。とんこつラーメンと炒飯と餃子だけの、シンプルなお店だから。なのにこんな、前代未聞の対処不明な……
「はいはい、ラーメン一つに餃子ね。はいそっちは炒飯」
女将さんがどっからかソロバンを引っ張り出し、はじき始めた。――めちゃくちゃ速い。素早くそっちへ移動する人もいるけど、あたしの方に待ち行列した人たちはちっとも進まずイライラが募るのがわかる。
「しょ、少々お待ちくださいませ」
あたしも女将さんから渡された電卓を叩き始めたが、何度打っても間違える。指が震えてしまっている。
「もう。まだあ?」
「もう少々……お待ち――」
「早くしてくれよ!」と怒り爆発の声が聞こえた途端、あたしはギクリと電卓を落とした。
どうしようどうしよう。どうしよう――
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