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その次の日、しれっと現れた。白い歯をキラリと光らせたエチゴヤが。
「やあ」と爽やかな笑みで片手を上げる。あたしはフンと顔をそむけた。……接客業にあるまじき態度だけど。
「え……何か怒ってる?」
あたしは泣きそうになった。これまでろくに話せなかったのに。何で悪い奴ってわかってから初めてまともに会話が始まるのか。……と思ったら腹が立ってきた。
「はい、怒ってます。妙なことしないでください!」
「えっ」
あたしはレジからラーメン一杯分の代金を取ってエチゴヤの前にバンと叩き置いた。
「あのトラブルの日、来てもいないのに来たフリして、その後ラーメン代払ってくれましたよね。そんな変なことするなんて、疚しい何かがあるってことですよね?」
エチゴヤは唖然とした。そして口をパクパクしたが言葉が出なかった。しばらくの沈黙の後、唾を飲み込んでようやく一言。
「……うん。下心が……なかったとは、言えない、かも」
煮え切らない。あたしはもう、彼に背を向け、無視することに決めた。
「あのね。ごめんね。でもね」
エチゴヤは続けていたが、もう聞く気もしない。悪い奴悪い奴悪い奴。
「……俺、毎日来るって約束したのに、昨日はどうしても来れなくて。だから、来たフリをした。実際来た同僚の分を払ってそういうフリをした……」
「……え?」
女将さんが素早くチラシを差し出した。
「同僚って、どの人?」
「あ、こいつ。俺が払うって後で言おうと思ってたんだけど。もう払ってやがったのか。生真面目な奴だからなあ……だから二重払いになっちゃったんだな……」
そういえば。
初めてこのお店にこの人が来た時。まぶしくて唖然としていたあたしは、「今後もぜひ御贔屓に」としか言えなくて。そしたら「毎日来るよ」って……
え? や、約束? あれ、約束だったの? ただの社交辞令で、あたしが一方的に待っていたのだと思っていた。
「約束破る男だなんて思われたくなくってさ」
照れ照れと頭を掻きながら言うエチゴヤは……
いい人なんじゃない? やっぱエチゴヤじゃなくて、シンジョウさんなんじゃない?
「いつもの、お願い」
キラリ。白い歯。
「しょ……少々、お待ち……」
あたしの頭はまたしても回線がショート、ついには煙も噴き出した。
(終)
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