第一話 予知夢(未来みえるって、損じゃね)

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第一話 予知夢(未来みえるって、損じゃね)

「…出て行く 」そう言って、彼女は出て行った …という夢をみた。  ただの夢だろ、と思うかもしれないが、俺は、枕の下に「ひじき」を入れると予知夢を見れる能力者だ。おそらく、昨日食べた乾燥ひじきが枕元に落ちたのだろう。  とてもじゃないけど、こんな鼻くそを飛ばしていたら射撃スキルが上達したみたいな能力を、他の人に言えるわけなかったし、言いたくもなかった。 ・・・くそッ、ヒジキどもめ、毎日欠かさず食べてやっているのに、こんな悲劇を見せやがって… と虚しい恨みごとをひじきに言っていた。    しかし、予知夢で見た事は現実になる。この事実だけは、変わりようがない。   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  彼女が家に来てしまった。突然、彼女から家に行きたいとメールが来ていたのだ。    普段、付き合いのわるい彼女から提案されたら、頭フラワーガーデンだったとは思う。  しかし、今朝の夢が頭から離れないせいで、いつ別れを告げられのか肝が冷えっぱなしだった。  もちろん、今までにも予知夢で嫌なことを見ることはあったが、肝心の"経緯"の部分を覚えていない。俺の中で印象に残った所しか覚えていないのだ。つまり、いつ、あの夢のとおりになるのか分からないのである。 「 …大丈夫? 」と心配そうに彼女が聞いてきた。 「おお、大丈夫、大丈夫…」  内心、全然大丈夫ではなかったが、つい反射的に応えてしまった。 「 それより、今から飯でも食べに行かねえ?」と突拍子もない事を言い出す俺。  決して、早々に来た彼女を追い出そうとして言ったわけではない。夢で彼女がはっきりと出て行くと言っていた事を覚えているだろうか。  だったら、言われる前から出て行っていればいい。  一日中、外に連れ出して、出て行くという状態を作らなければ、別れる事もない。 我ながら天才ではないかと思ってしまった。 「ううん、朝ごはん食べてきたから大丈夫」 「ですよねー」  あっさりと俺の作戦がパーになった。  どうする、無理にでも飯に誘うか。いや、俺が飲み会大好きな面倒いおじさんと思われかねない。 どうする…どうする… 「 実は、話しがあって来たの  」  と、言われた瞬間、俺の心臓が終わったと サインが聞こえた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「 何をしているの… 」と変な物を見るような目で言ってきた。    フッ‥‥それもそのはず。なぜなら俺は、彼女の前で"実力行使"に出ていたからだ。 「 分かるだろ… 土下座だよ」  しかも、普段は恥ずかしがりやである俺の トランクスまでもが、今日だけは馳せ参じている。    つまり、俺は彼女の前で全裸同然の格好で 土下座をしている。  彼女は、止めなかったのかって… 違う、彼女が止めるよりも先に脱いでいたんだ。俺の耳に届くよりも速く…  そう、頭が真っ白になった時には、すでに脱ぎ終わっていたんだ。 「 すみませんでしたぁあああ!! 」  彼女の目の前で脱ぎ出した事。そして… 別れたくないという思いから、謝罪の言葉が 自然と出ていた。 「 俺自身、今まで女性と付き合った経験がなくて、至らない部分が多くあるのは自分でもよく理解しているつもりだ。でも、君と別れるのは絶対に嫌だ!初めて俺を好きだって言ってくれた君を大事にしたい。」    この気持ちだけは、本当だ。  俺は、女の子が大好きで色々な人を好きになりやすかった。それで、ところ構わず可愛い女の子に告白しては、振られ、告白しては、また振られる事を何十回も繰り返してきた。そのたびに、自分は"男"としての価値がない事を自覚した。 ある日、今の彼女から告白された。  俺が告白した女の子の顔は、だいたい引きつっていたし、告白そのものが害悪だと思っていた。    でも、告白されるってこんなに嬉しい事なんだと、初めて理解できた…気がした。  だからこそ、よく知りたい。知って、どうして彼女が俺を好きになってくれたのかも。 「 俺がなにかをやらかして、怒っているのは分かる。でも、なんで怒っているのかが分からない。 だからこそ、教えてほしい。俺のダメな所を」 俺の気持ちは、伝えた。頼む、届いてくれ  そして、彼女はゆっくりと口を開き… 「じゃあ、まず服を着ろ」と引きつった顔で 言われた。 「……はい」  俺の気持ちは、不本意な形で伝わった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「で、… どうしてこうなったの 」と彼女は少し不機嫌そうに聞いてきた。  同然の質問である。しかし、正直に言って 信じてもらえる物なのだろうか。    ただでさえ、目の前で裸になって評価ガタ落ちなのに、さらに予知夢が見れるなんて言い出したら、別れる以前に精神科送りだろう… 「 君と別れるような気がして… 」と、俺は 当たり障りない回答をした。   「 .....なんでそう思ったのかは知らないけど、私本当に怒っていないから」 「 えっ!?本当か?」とつい聞き返してしまった。 「 そういえば、私たち付き合ってどれくらい だっけ?」 「 ちょうど、3ヶ月ぐらいかな」 「 意外に経ってないんだね、もっと前から付き合ってると…って、そうじゃなくて!」 と呟いていたが、上手いこと聞き取ることができなかった。 何か、とても惜しい事をした気がする。 「 そんなに付き合ってないんだからすぐに別れないわよ」と彼女はきっぱり、この関係を継続してくれると宣言してくれた。  本当によかった… だとすると、あの夢なんだったのか。余計、謎が深まった。 「 それと話って言うのが… 今度の休みに、 どこか遊びに行けたらいいなと思って、 相談しに来たんだけど…」と、少し恥ずかしそうに言った。 「 いつも誘ってくれるのに、断ってばかりいるのは悪いし、どこか遠くへ旅行でもしたいなと思って…」 「 どこ行く? 草津? 横山繁華街?」 「 了承速くない!? 」  そりゃあ、彼女と旅行デートなんて、夫婦前のカップルしかやらない事を、しかも彼女の方からしてくれるなんて、OK以外考えられない。しかも、泊まりがけなら、"ごちそうさまイベント"があってもおかしくない!!(ここ重要) 「 でも、バイトの予定とか、大丈夫なの?」と彼女は、俺のスケジュールが本当に大丈夫なのか再確認してきた。 「 大丈夫、大丈夫…俺、ちょうど来週暇だったから」  正直、来週もシフトを結構入れていたが仕方がない。 ー 俺は、仕事とより愛愛愛  帰ってきて、店長に土産でも渡せば問題無し! 「 で、どこに行…… 」 ピンポーン… とチャイムが鳴った。  これから彼女との明るい未来の話をしようという時になんて間の悪い、まるでうちの彼女みたいだ(彼女ディス)    それにしても、誰だ、こんなタイミングで来る野郎は… 「 宅配便でーす。」  なんだいつもの宅配便か… ちょっと待て!いつものという事は・・・ 「 何か届いたみたいだよ」と彼女は、宅配 された"物"を持ってきてくれた。 「 ありがとう!よし、俺に渡してくれ」 「 この荷物、宛先が書いてないんだけど何なのこれ?」    くっ、目敏いなこの彼女は… まずい、このままだと中を開けようとか言い出しかねない。 「 とりあえず渡してくれ!!」  俺は、強引に彼女から荷物を奪おうとした 「 どうしたの急に!?ちょっと、荷物を引っ張らないで、割れ物だったら落として壊れる」 「 いい…からあッ!! 」なんとか彼女から 荷物の強奪に成功した。    分かっているかもしれないが、届いた荷物は、おそらく"悟りの書" (※尚、実際の悟りの書ではございません) 男が賢者にジョブチェンするための必須素材  だから、なんとか奪えたのは良かった …が、 …"重い "!!  購入した本が想像よりも重く、俺のガリガリボディが悲鳴をあげている。  このままだと、勢い余って荷物を落として、破損確認のために、彼女に中身を見られて しまう… ーーそれだけは、なんとしてでも死守しなければならない!!  男として!! うぉぉおおおお!! がんばれ、俺の上腕二頭筋、これから過ごす彼女との甘いひと時のため、明るい未来へ向かうため、俺はここで 負けるわけにはいかないんだ ーーいッけぇぇぇえええ!!! …… ハァ ハァ   な、なんとか持ち堪えた。 足を大きく広げ、なんとかバランスを取り、荷物を落とすような事はなかった。   これで最悪の状況を回避することはできる。  お父さん…お母さん… 俺を、健康な肉体と諦めない強い心に 育ててくれてありがとう、と感謝の気持ちを 現在居合わせない両親に告げた。 ー正直に言おう。 この時、俺は油断していた。  夢が間違いだったと気づき、彼女と旅行に 行ける、その想いで頭がいっぱいで肝心な事を忘れていた。 そういえば…  ーこのダンボール、厚みがなかったな… 頭から本がドサドサと落ちてきた。  持っていた荷物に穴が空き、中に入っていた本が足元に散らばってしまった。確かに、こういった本を眺めるのは大好きだが、 絶対に今ではない。 「 あの…これは… 」と出来るだけ可愛い 小動物を装ってみたがダメだった。 「 ねぇ…なんでこんな物読んでるのかな…」  さっきまで優しく、可愛いかった彼女は どこへやら。 今、目の前にいるのは 俺をぶちのめさんとする"般若"だ。    許す許さないは、誰が決めた… ーー" 彼女"が決めた 「ーーぶッべらぁぁああああああ 」  目に止まらぬ彼女の蹴りが俺の腹部に クリティカルヒットさせた。彼女からしたら、彼氏に浮気されたぐらいにショックな事だったとは思うし、今回は俺に非があると思う…  次は、"絶対に" バレないように購入しようと心に強く誓った。 結局、予知夢のとおり彼女は出て行った。 ーーとても冷めた声で "出て行く"と告げて …しかし、俺は気づかなかった(瀕死だから) 出て行く直前、一瞬だけ、彼女がとても可愛らしく嬉しそうに笑っていたことに ーーそして、彼女とデートをしたかどうかは、またいつか話す事にしよう。
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