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After The Rain
霧のような雨が降り続く中、ロンドンの街角を優雅に歩く男性の姿があった。
いつものカフェで、いつものように朝食を摂っていた女性が毎朝彼の姿を見るようになったのは、スコットランドヤードに派遣されてすぐの事だった。
そのしなやかな、猫のようなそれでいて気品のある歩く姿を初めて見た時から、彼女は彼を意識するようになった。おそらく、誰もがそう感じるであろうオーラを放っている。道行く人も振り返っているのを、よく見かけもした。
俳優かな?
彼女は、フル・イングリッシュ・ブレックファーストを贅沢にも毎朝味わいながら、その姿を見るのを楽しみにしていた。なぜか顔がはっきりとはしないのだが、彼は確かに彼と分かる姿で街に溶け込んで歩いてゆく。
忙しい研修の日々にあって、唯一ゆっくりとした朝霧の中、ここで美味しい朝食と彼の姿を見るのが日課になっている。
さあ、今日も一日頑張るぞ!
見知らぬ紳士が去って行く姿を見つめながら、朝の光が差してくる。雨があがり、少し先に虹が見えた。何か良いことがありそう。そんな一日の始まりに、見知った同僚の着信が入る。
「お、久しぶり秋山!どうした?」
彼女は懐かしい友に、明るく始まりの挨拶をするのだった。
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