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「生成AIの活用が盛んになって、再び攻撃者の侵入経路が多様化している今、国家を上げたセキュリティ強化との頭脳戦となっているのに…。あの馬鹿ども達は!」
庵野兄は太鼓腹を揺らしながら、弟と彼らの仕事場に戻って稲妻チョコバーを齧りながら文句を垂れ流し続けていた。
弟は、兄よりちょっとばかり気が良い奴で橋渡しをするのは庵野弟の役割だった。
兄を宥めすかしながら、茶など甲斐甲斐しく淹れてやりやっと自分も一息ついたところでまた厄介な上司がやってきた。
まいったなぁと思いながらも、短めの足をちょこんと合わせて弟はきちんと礼をしたが、兄は変わらずチョコバーの2本目の封を切っているところだった。
「お疲れのところ悪いけれど、これの分析お願いできる?ちょっと厄介だと思うけど。」
この一見、公安とは思えない人当たりの良さが、かえって鼻につくんだよなぁ。と弟は思いながらも、ちょっと厄介とわざわざ言う辺りの嫌らしさにも肌が合わないと感じていた。
「弥彦警視正、それ先日のATR絡みですよね。なら、もうやってますよ。」
「ちっ!また黒岩の野郎か?」
弥彦警視正は公安管理官で、黒岩警視正は警視庁捜査一課長だった。どちらも二人にとって馴染みのある上司で、何かと依頼を受ける関係であった。
ふたりは同期で、信じないが仲が良いらしい。
「結果が出たら、俺に先に知らせろ!いいな!」
庵野弟の返事も待たずに、大股で去っていった。
「俺さ、どっちかっていうと無愛想だけど黒岩さんの方がいいな。」
兄が2つ目のチョコバーを食べ終えたベタつく口で、モサッと言い、ベタつく手でパソコンを触ろうとするのを目ざとく見つけて、弟はキーボードを死守したのだった。
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