James

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 黒岩が部下の秋山巡査長と向かった先は、『桃源郷』という世界的な企業が運営する日本支店だった。支店とは言え、彼らが運営する『最先端医療山の手病院』の中にそのオフィスがある。  医療を隠れ蓑にしているマフィアだと黒岩は常々思っているのだが、今のところ真っさらな経営をしている。何の汚点もないなんて、信じられる訳がない。  ATRの筆頭株主でもある『桃源郷』は、その情報網においても世界有数だ。彼らが自分の所有物について、知らないなど考えられない事だ。残念ながら、警視庁が彼らに太刀打ちできるとはこれっぽっちも思われない。  黒岩が有能なのは、恥も外聞もなく利用できるものは徹底的に利用する(したた)かさ、いや純粋さか?そんな事を考えながら、日本桃源郷の窓口でもあり有能な秘書でもある咲耶が、オフィスで黒岩を出迎えた。  「黒岩一課長様が直々にとは、驚きましたわ。」  ティンカーベルと呼ばれるほど愛くるしい咲耶の笑みも、黒岩は全く興味が無いようで、いつも無駄に愛想良くはしない咲耶だったが、ATRの件は桃源郷NY本店からも警視庁に探りを入れるように言われていたので、とりあえずセクシーに出迎えた。  「問い合わせの資料を確認させてもらおう。望みの資料は、ここにある。」  「おそらくATRをターゲットとしたのは、手始めに間抜けな日本を潰す気なのじゃないかしら。」  自分をスルーする黒岩への仕返しにさらりと衝撃発言をする咲耶を、黒岩が死神の視線で射抜く。ふざけるなと、その目は語っていた。  「資料にあるように、今回の爆破はあなた方の予想通り。モロッコのプログラマーね。その子を突き止められたのは、大した腕前だとNYが感心していたわよ。」  「この資料は、確かなんだな?」  咲耶の話しなど無視して、資料を確認していた黒岩が目線を咲耶に向けた。  「ええ、間違いなく。今回の黒幕は、イギリスで暗躍しているサイバー犯の通称"ジェームズ"。ただ、それ以上の情報は桃源郷でも掴めていないわ。捕まえるのは、私達の役目じゃないもの。怠惰なのは、あなた方警察じゃなくて?」  嬉しそうに笑う咲耶に、黒岩も漆黒の笑みを向けた。  「言われなくてもそうするさ。"ジェームズ"が俺の目的とする日本人なら、これは俺たちの仕事だ。」
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