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食事をしている俺を見て母が微笑む。
「たくさん食べてね。〇〇が美味しそうにご飯を食べてるのを見てると、母さん、とても幸せなの」
いつもそう言い、笑ってくれるが、母は父の後妻で俺と血の繋がりはない。
俺の産みの母は、産後間もなくこの世を去り、そのあと数年、父が男手一つで俺を育ててくれた。
この母はそんな父の元に嫁いできて、それからは、まるで実子のように俺のことを大切にしてくれている。
だから、三年前、父が突然の事故で他界した後も、血の繋がりなど関係ないと母は言い、俺達はこうして一緒に生活を続けている。
「でも○○、会った頃と比べると、ずいぶん大きくなったわね。もう、お父さんよりも大きいんじゃない?」
「んー…多分」
父は身長百八十センチ超えの大柄な人だったが、それが遺伝したのか、俺も高校に入った辺りで背が伸び始め、今では生前の父の伸長をもう超えている状態だ。
「色々苦労もあったけれど、一生懸命育てた買いがあったわ。これだけ育てば、こちらも確実におなか一杯になると思うから」
…ん? 今母が妙なことを口にしたぞ。
俺が育てばおなかいっぱいって何だ?
「あの人…あなたのお父さんは本当に美味しかった。あなたもあの人によく似てるから、きっとすごく美味な筈。
もう、育てるのはこれくらいで十分」
問うより先に母がつらつらと言葉を並べる。その意味がまるで判らず固まっていると、テーブルの向こうに座っていた母が立ち上がった。
「手塩にかけて育てた美味しいもの食べる。こんな幸せなことって他にないわよね」
見慣れた母の笑みが…姿そのものが豹変する。
これまで見たこともない化け物。そいつが、母に似た笑みを浮かべた直後、一瞬間の痛みを伴いながら俺の意識掻き消えた。
母の幸せ…完
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