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投げかけられた質問
長い時間お風呂に浸かっていると、頬に汗が流れてきた。不快ではなく、むしろ気持ち良さが勝る汗だ。汗と一緒に疲れも流したいと弦田照雄は思った。
ブクブクブク…。突然、湯舟に張られたお湯に泡が浮き出した。透明だったお湯が無数の泡でだんだんと白濁していく。すると、バシャッと水面に何かが現れた!
「わっ!?」
「どうも」
弦田は思わず声を出した。お湯の中からこの世の者とは思えない美しい女性が現れたからだ。女性はバスタオルを巻き、胸像のように上半身だけがお湯の上に出ていた。浴槽の中は入浴剤を入れたかのように白濁して不透明だった。
「わ、わわわ! 誰?」
「私はお風呂の精霊です」
「そんな馬鹿な!」
「ずっとあなたのことを見ていました。あなたはいい年齢なのにまだシャンプーハットを被って頭を洗っていますね」
「ギクッ! なぜそれを?」
「精霊は何でも知っています。何も恥ずかしいことでありません」
「実はシャンプー中、背後に誰かがいると思うと怖くて目を瞑れないんです…って、そんなことはどうでも良いんですよ!」
「その気持ちはわかります。私は目を瞑っている人を見ると、背後からこっそりシャンプを継ぎ足したくなります」
「ひどい…。まあ、それは置いといて、どうして精霊が家のお風呂に?」
なぜ自分のところにお風呂の精霊が現れたのか弦田は不思議だった。
「毎日欠かさずお風呂に浸かってまったりしているあなたに会いに来たのです。会いに来てはいけませんか?」
「そんなことはないけど…」
精霊はお湯の中から静かに手を出した。
「ところで、あなたが使ってるシャンプーはこの『髪がコキアのようにフサフサになるシャンプー』ですか、それともこちらの『髪が摩擦係数ゼロのツルツルになるシャンプー』ですか?」
いきなりな展開だ。でも、それはどこかで聞いたことがあるような質問だった。
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