二度目の初めまして

4/11
前へ
/11ページ
次へ
「ぎゃああああ!」  泣いている子どもは他にも居たけど、娘の声と暴れ具合に圧倒して泣き止んでしまうぐらい、その泣き声は凄まじかった。  よって、身体測定、内科検診は出来ず。  その他の検診内容である、積み木を積んでいったり、聞かれた物の絵を指差すとか、そんなこと出来る次元の話ではない。  床を寝そべり手足をジタバタさせてギャアギャア叫ぶ娘を横目に。母親の膝で積み木を乗せていき、聞かれた物を指差して褒められて笑っている同世代の子を目の当たりにした。  どうして他の子のように出来ないの?  まだ泣いているのなんか、ウチぐらいだよ?  周りが最も簡単にしていることがどうして出来ないの?  一人泣き叫ぶ娘の姿に、ただ惨めだった。  そんな、はちゃめちゃな健診は終わり、保健師さんとの最後の面談。  その頃に、ようやく泣き疲れた真美は眠り、ゆっくり話が出来るようになった。  私の膝でスヤスヤと眠る寝顔に大きな溜息を吐いていると、五十代ぐらいの優しそうな女性はにこやかに話を切り出した。 「お母さんが書いてくれた『心配なこと』を読ませてもらいました。確かに真美ちゃん、辛そうですね……」  私は母子手帳の一番下の「心配なこと」と記載されている場所に、癇癪のことを記入していて、その返答だった。 「引っ越ししてから車の中だけ落ち着いていたことから、人見知りとか場所見知りが強くあるかもしれないですね」  言われてみて、ハッとなる。  確かに知らない人に話しかけられたり、初めての場所に行くと激しく癇癪を起こしていた。  そうだったんだ。 「お母さんも大変でしょう?」  その言葉に続いて、発達が心配な子ども向けの「親子教室」を紹介された。 「え? でも、そこに行ったら余計に泣き叫ぶのでは……」 「そうですけど、いずれは集団生活が始まるので少しずつ慣れていってくれればと思います。社会で生きていくことは『初めてのこと』と『想定外の連続』で、それに知らなければならないと。発達もゆっくり目ですし、外で刺激を受けた方が良いですね。いつでも、お気軽に遊びに来て下さいね」  確かに。癇癪ばかりに気を取られてしまっていたけど、真美は発達もゆっくりでまだ言葉が出ていない。  家に居て、同世代と関わっていない弊害だろうか。 「……はい」  そう返事した私は、目が覚めて騒ぐ真美を車のチャイルドシートに乗せて健診会場を後にした。  保健師さんの言っている意味が分からない。  どうして泣いている子を、わざわざ泣かしに連れて行かなければならないのだろう?  幼稚園なんて二年ぐらい先だし、時期が来れば落ち着く。そうだよね?  そう思いながら運転している中、娘はしばらくギャアギャア泣いていたけど、家に近付くと途端に泣き止んで景色をボーと眺めていた。  どうしてみんなと同じく、お利口に出来ないのだろう。  今じゃなくて、あの時にしていれば。  すると湧き上がる、黒い感情。    子どもは、私の所有物ではない。  母親である私の為に良い子でいる必要も、出来ないから悪い子というわけでも。それによって、私が恥じることも何も。  分かってる。分かっているけど。  目から溢れてくるものが抑えられなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加