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住宅街の多い、都心のベッドタウンとされるこの街には、昔から地元民に愛されるチェーンの服屋がある。
老若男女、家族連れも多いこのお店が人気の理由は、その服の安さだろう。
僕はそんなこのお店が大好きだった。
お母さんに手を引かれ、団欒のある光景も。付き合いたての中学生カップルが、少ないお小遣いで初々しく、ペアルックを選ぶ姿も。
「おや?
君は確か……」
クリっとした瞳を覗かせる少年。
服屋の一角に小さく設置されたゲームコーナーには、ぬいぐるみのUFOキャッチャーや、ルーレット、車の乗り物、多くのガチャガチャなど、それなりのゲーム設備があった。
少年の手に握りしめられたのは、キラリと光る100円玉。
それを僕が隠れる箱に入れた少年。
「よし、ゲームスマートだ。
負けないぞ」
黄色いハンマーを片手に持った少年に、タイミングを合わせて飛び出す僕。
僕の使命は、そのハンマーで叩かれる寸前に攻撃を避けること。
他の4匹の仲間たちも同じように少年の攻撃を華麗に避ける。
そりゃそうさ。
もう何年も、何十年も。
この場所で君のような少年少女、たまに懐かしがって遊ぶ青年だって、彼らの攻撃をずっと避けてきたのだ。そう簡単には当たらないさ。
次第に闇雲になりながら、クリっとした瞳がうるうるとしてくる可愛い少年。
「仕方ないな」
ポコッ!
店内に響き渡るような大きな音では無いけれど、少なくとも少年の心には響くハンマーの心地よい音。
「やられた!」
ようやく当たった少年の表情には、満面の笑みがこぼれた。
僕の声はきっと君には届かないけれど。でもまたいつか遊びに来るんだよ。
僕はいつでもこのお店にいるからさ。
そうして、僕はまた箱に隠れて、お店を見渡す。
体は緑で、牙がある。
目つきはギラっとしていて凶暴そうに見えるけど。
このお店が大好きなんだ。
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