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山間の町に、一風変わったアウトドアショップがあった。その店は、寿司屋のように威勢のいい掛け声が特徴だった。店の名前は「紅白満点堂」。店内に足を踏み入れると、赤と白の装飾が目に飛び込んでくる。まるで年中正月が続いているかのような賑やかな雰囲気だ。
店主の大山は、元々寿司屋のせがれだったが、アウトドアが大好きでこの店を始めた。彼の威勢のいい掛け声は父親譲りであり、店は活気に満ちていた。
「らっしゃっせー、らっしゃっせー! 今日も元気に参りましょう!」と大山の声が響くと、自然と客の顔にも笑顔が浮かぶ。店内にはキャンプ用品や登山道具が所狭しと並んでいた。その間を行き交う客たちは、まるで祭りの露店を巡っているかのような気分になった。
ある日、心が沈んでいる青年が店を訪れた。彼の名前は斉田。仕事のストレスと失恋が重なり、元気が出なかった。何か変わるきっかけが欲しくて、この店にやってきた。
店に入ると大山の明るい声が迎えた。「おお、らっしゃっせー! 今日は何をお探しで?」
斉田は曖昧な笑みを浮かべ、「ちょっと元気をもらいに来ました」と答えた。大山は大きく頷き、「それならちょうどいいものがある!」と店の奥へと案内した。そこには、一抱えはあるだろう、大きめの賽銭箱が置かれていた。「アウトドアショップにお賽銭箱?」と斉田は驚きの声を上げた。
大山は笑いながら説明した。「そう、このお賽銭箱は特別なんだ。ここにお願いごとをしてお賽銭を入れると、山の神様が応援してくれるんだよ。ほら、やってみな!」
斉田は半信半疑のまま、お賽銭箱に手を合わせ、「元気をください」と呟いた。そしてポケットから100円玉を取り出し、賽銭箱に入れた。すると不思議なことに、心が少し軽くなったような気がした。
大山はにっこりと笑い、「いいね、山の神様はいつでも君を見守ってくれているよ。さあ、新しい気持ちで一歩を踏み出すんだ」
斉田は暖かい気持ちでいっぱいになり、店を出る頃には、心の中に新たな活力が湧いていた。大山の店はただのアウトドアショップではなく、訪れる人々に元気と希望を与える特別な場所だった。
その後、斉田は山に登り始め、自然の中で新たな自分を見つけていった。紅白満点堂の賽銭箱と大山の掛け声が、人生の転機となったのだ。
それからも、町の人々は気分が落ち込んだ時には紅白満点堂を訪れ、元気をもらって帰るのだった。年中正月気分のその店は、今日も明るい掛け声とともに、訪れる人々を温かく迎えている。
なお、一つだけ注意点がある。山の天気は変わりやすいように、山の神様の機嫌も変わりやすいそうだ。だから、山の神様の機嫌のいい時に来るように。大山は年がら年じゅう上機嫌だが。
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