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「あ、いっくんみっけ。新しいクラスはどう?」
中学に上がり、いっくんは元々のきりりとした顔つきが多少大人びたものになったように思う。
俺の思い過ごしかもしれないけど。
普段と変わらずそんなふうに話しかけてみるが、相変わらずいっくんは俺の方に顔を向けることもなく手元にある本に視線を落としたまま口を開いた。
「別に、普通だよ」
「...普通かぁ。まあそれが一番だよね、平和ってことじゃん」
「うん」
いっくんとの会話とも言えないこのやりとりは、基本俺一人が喋っているようなものだ。
「...でも、前にいっくんのこといじめてた子達とはどう?あれから何もされてない?」
「うん。君のおかげであれから何もない」
「はは、別に俺は何もしてないって。でもそれならよかった」
小学校を卒業する前にいっくんをいじめてた奴らは俺が少しおどかしてやった。
あの時はみんなひどく怯えていた様子だったけど、きっともう大丈夫なんだろう。
「...と、それじゃあ俺はもう...」
「ねえ」
「...っ...、なに。どしたの?」
久々にいっくんから話しかけられて、俺は情けなくびくりと肩が震えてしまう。
そうすればいっくんは、その表情を変えることなくぱたりと本を閉じて、ゆっくりと視線を上げた。
そして一言、ぽつりと呟く。
「必要だよ」
一体何が、なんて。
そんなこと聞く必要もなかった。
「...うん、わかった。...ありがとう」
俺の相槌を聞いたいっくんはその口元を僅かに上げて、満足げに頷いてから再び俺から視線を逸らした。
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