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 いつの間にか雨が降るわけでもない黒い雲が空を覆っていた。  普段なら寒いと感じるはずの冷たい風が耳元でヒュウヒュウと音を鳴らす。  肌に当たるとピリピリと電気がはしるような、火傷でヒリヒリ痛むような感覚で身体をブルブルと震わせる。  痛いという感覚だけが脳に汽笛を鳴らし、風の音も黒い雲も見えなくなっていた。  海のザザーンとした大きな波の音でハッと我に返ると、腕を抱えてうずくまっていた。  立ち上がろうと足に力を入れるが、上手く立てずに柔らかいクッションのようなものに包まれる。  暗闇の中にいるみたいでどこに進めばいいのか分からないし、今いる場所がどこなのかすらも理解不能で太陽も無いから方向感覚も無い。  ーー絶望。  一縷の光すら無い真っ暗な世界は果てしなく続いて、何も存在しない空間だった。  暗闇に身体が溶けて自分が自分じゃ無くなる。  ボロボロと崩壊するように指先の感覚から消えていく。  死ぬとは、こういう感覚なのだろうか。  何も残らず跡形も無い。  今誰かの思い出の中にいたとしても、いずれ忘れ去られて消えていく。  もしかしたら世界の歯車になるとはこういうことなのかもしれない。  自然に還るとしてもそれはほんのわずかなのかもしれない。  もっと、人生楽しめば良かった。
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