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数瞬の後、その場に倒れていたのは六人の与太者たちだった。
「ねっ、言ったとおりでしょ。勝負になんかならないよ」
拓磨の言葉通り、薫子の方は息さえ切れていない。
ステッキで散々打ち据えられ、柄の悪い男たちはヒイヒイと呻き声を上げて痛がっている。
「どお、これに懲りたら弱い者いじめは止めなさいよ。女だからって見くびってると酷いわよ」
兄貴株のサブを見下ろしながら、薫子が意気揚々と胸を張る。
「痛え、痛えよう。腕の骨が折れてるみたいだ、痛くて堪んねえよ。ちょっと加減を見てくれねえかお嬢さん、とてもじゃねえアンタにゃ敵わねえ。降参するから」
サブが顔を歪めて懇願する。
「放っといた方がいい、そんなヤツ自業自得だ。情けを掛けても仇で返されるのが落ちだ」
拓磨が冷ややかに言い放つ。
「そんな殺生な、本当に痛いんだよ。このままじゃ左腕が利かなくなっちまうかも知れねえ、頼むからどうにかしてくれよ」
薫子はしばし考えていたが、あまりに痛がっているサブを見過ごせなくなり傍らにしゃがみ込んだ。
「しょうがないなあ、そんなに強く叩いたつもりはないんだけど」
サブの顔を覗き込んだ刹那〝にっ〟とその悪党面の唇が、引きつるように歪んだ。
「危ない!」
掛け声と同時に拓磨の右足が、素早く一閃した。
間一髪の所で突き出されたヤッパが蹴り上げられ、数メートル先に転がった。
サブは懐の刃物で、薫子の胸をひと突きするつもりだったのだ。
薫子は柳眉を逆立て、人相の悪いやくざ者を睨みつける。
「よくも騙したわね」
サブの喉元めがけ手刀が振り下ろされると、彼は泡を吹いて悶絶した。
「だから言っただろ、仇で返されるのが落ちだって」
薫子は厳しい顔で拓磨を見据え、深々と頭を垂れた。
「ありがとう、お陰で助かった」
上げた顔には満面の笑みがあった。
〝 ! 〟
はっとするほど美しい、大輪の笑顔であった。
拓磨の頬が微かに紅らむ。
このあと深く関わってゆく事になるなど、このときふたりは思いもしていなかった。
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