発端 1

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 今大戦により、日本は日露戦争以降続いていた経済的疲弊から一気に立ち直った。  軍需品の供給を担い、英国やロシアへの輸出量は飛躍的に増大した。  欧州諸国からの物品が入ってこなくなった東南アジアへの代替え輸出もうなぎ登り、支那大陸ではほぼ日本が独占状態にまでなっている。  一部の資本家はその経済規模が数倍から数十倍に膨らみ、目端の利く商人や詐欺師まがいの人間が一躍成金となり、富に飽かせて贅沢三昧の生活を楽しむと言う滑稽な事態となった。  日本と太平洋を挟んで存在する、かつて英国の植民地であった宏大な国土を持つ国がある。  彼の国も、この大戦争により巨万の富を得た。  それまで世界一の借金国家であった、アメリカ合衆国である。  この国はおもに英国、フランスに軍事物資や食糧を供給して大もうけをした。  それは輸出だけに留まらず、金融の貸し付けも高額に至り米国政府は英仏両国に十億ドルもの大金を貸し付けた。  孤立主義であった米国がそれまで興味を示さなかった欧州参戦を決めたのは、協商国側の敗戦により、輸出の売掛金や貸し付けの金が焦げ付くのを恐れたからであった。  そのお陰で米国の若者の生命が十一万人、負傷者二十万人という代価を支払う結果となる。  だがこの大きな戦争を切っ掛けに、新興国であった米国は世界屈指の大国へと駆け上ってゆくことになる。  三十五億ドルという世界一の債務国家から、百二十五億ドルの債権国家へと変貌したのだ。  金の保有量も世界の半数を占め、工業生産量はいまや全世界の四十パーセント以上を占める。  戦争が終わってしまえば、それまで世界に君臨していた大英帝国に肩を並べたのは、かつての植民地アメリカ合衆国であった。  いまやその国力は、超大国と言ってよかった。  その金力と豊富な物資、そうして驚異的な動員力ですでに二百体以上の自走式機械兵〝US鉄騎兵〟を実装備している。  そうしてもうひとつ、突然この世界に降って湧いたように現れた〝プロイセン蒸気第三帝国〟の存在があった。  それは出現したときには〝国〟ですらなかった。  大独逸帝国を形成するに当たり、その中心となったプロイセン王国のポメラニア地方から現れた、一軍閥ほどの勢力であった。  しかし自らを〝プロイセン蒸気第三帝国〟と自称し、劣勢であった独逸帝国を救うべく電撃参戦した。  勝手に国を名乗るこの一団を当初独逸は無視し、逆に国家の統制を乱す存在として敵視する。  だが数年前に天才科学者〝Dr.ワットヴェルグ〟によって発表された〝ネオ・スチームパワー(新蒸気機関)理論〟を完成させた〝ハーケン財団〟によって製造された新たな兵器は、そんなことを言っていられないほどの能力を有していた。  彼らが投入した新兵器により中央同盟国側は、降伏間近な状態から一気に戦況をひっくり返すことになる。  汎用龍機兵と呼ばれる斬新な兵器は、同盟国各地へと送られその悉くで多大な戦果を上げた。  それに遅れること半年、大英帝国も世界一の国家の威信を賭けて開発した、新型猟機兵を実戦投入する。 (ハーケン財団の新兵器登場時、すでに英国は最初号の機体を開発していた。しかし即時実戦投入までの完成度はなく、さらに半年の年月が掛かったのである。その最初号機五体の内の一体が、史上唯一の同盟国である大日本帝国へと供与されていた)  これにより戦線は膠着し、昨年六月の停戦条約締結に至るのである。
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