03 イオニア

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03 イオニア

 状況を整理する必要がある。  イオニアは三ヶ月がかりで取り組んだ強力な淫紋を完成させて、その右手に吸収した。あとは意中のピエドラ王女に接触して、淫紋を彼女の身体に移すだけ。 「………っ、イオニア、ごめんなさい」 「えっ?いや、俺はべつに……」  不慮の事故でイオニアの身体の上に着地したレイラが、見たことのない顔でこちらを見ている。  上気した頬に潤んだ双眼。ごめんと謝りながらも一向に退く気配はない。それどころか、気のせいでなければ、その柔らかな手のひらは怪しげな動きをしている。 「あの、レイラ……?何を……?」 「んっ、なにも……」 「いやいや。お前の手が、なんか、」  薄汚れたスラックスの上を這って、小さな手が動きを止めた。一番止まってほしくない場所で。 「えっと………え?」 「イオニア、おかしいの。こんなことするつもりないのに、何で……?手が止まらない、」 「おい、ちょっと!」  イオニアの制止も待たずにレイラは前をくつろげて、硬くなった分身を取り出す。まさかこんな場所で登場すると思っていなかった息子も、心なしか恥ずかしそうに見えた。 「………思ってたよりおっきい」 「思ってたって!?」 「あのね、毎日考えてたの。貴方が私の前を通るたびに、イオニアはどんな風に自分でするのかなって……」 「レイラ!待って、目を覚ませ……!」  ふふっと笑ったレイラはおもむろに手を突き上げると、着ていたシャツをガバッと脱いだ。あわあわと青ざめるイオニアの前であっという間に下着姿になる。  そして、イオニアは見た。  その白い腹の上に、自分が先ほどまで一心に掘っていた美しくも複雑な淫紋が浮かび上がっているのを。 「俺の淫紋………!?」 「いん…?ごめんなさい、本当はこんなに一方的じゃなくって、お互い気持ちを確かめた上でって、」 「………ッんが…!」 「思ってたんだけど……っあ、なんだか気持ちが、昂っちゃって……んっ、今から、しても良い?」  イオニアの頭の中に小さな宇宙が広がった。  白いドレスを着たピエドラ王女が爽やかな笑顔で手を振っている。完成した淫紋を王女の身体に刻んで、その豊満な胸を弄ぶつもりだったのだ。恥じらう顔を堪能して、朝から晩まで飽きるまで抱き潰す予定だった。 「…………なれるのか?」 「え?」  レイラは不思議そうに首を傾げる。  ピンク色の舌はすでにイオニアの息子に着きそうだ。 「お前、俺の肉奴隷になれるか?」  言った瞬間、あまりの童貞っぷりに咽せた。  思考とワードのセンスが童貞過ぎる。あの強気なレイラのことだ、淫紋ごときで人格が変わるはずがない。繰り出される侮蔑の言葉と蔑んだ目を想像して、イオニアは片手で顔を覆った。 「なし!今のは俺の間違───」 「なれるわ」 「………へ?」 「イオニア、お願い……」  皆まで言わずに、レイラの手がイオニアの腿に触れる。  身体中の血が沸騰したのではないかと疑うような感覚が爪先から駆け上がった。これが淫紋の効果だろうが何だろうが、今すぐにこの女を抱かねばならぬ。  それはもう尊い使命のようで。  自分だけに許された特権なのだと。
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