07 イオニア

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07 イオニア

 何時間経ったのか分からないが、ベタつく肌の気持ち悪さよりも、目の前で蕩けているこの女を貪り食いたいという欲求の方が強かった。  いつも避けていた強気な目がイオニアを見上げている。すっかり陥落した身体はもうされるがままで、ベッドの上はどちらのものかよく分からない体液で汚れていた。 「アンタが……洗いなさいよ、」 「お前のせいだろ」  淫紋の誤使用を棚に上げてイオニアは言って退ける。彼女の好きな最奥をトントンと突けば、レイラは何も喋らなくなった。  ぎゅうっと生き物のように締め付けるのは天賦の才能なのか、はたまた経験が生んだものか。どうでも良いはずなのに、そうしたことを考えるとイオニアはイライラする。自分の思考に自分で辟易としながら、その厄介な感情ごと吐き出すために抽挿を速めた。 「っひぁ、イオニア……ッ、またはやい、」 「あーやばい、めちゃくちゃ良い」 「ねぇ、おねがい聞いて……?」 「………っ、なんだよ」  抱いた女が可愛く見える謎現象。  これはきっとそういうタイプのヤツ。  イオニアはなるべくレイラの方を見ないようにしながら問い掛ける。指先をもじもじと合わせて、レイラは小さな声で要求を述べた。 「キスしたいの」 「っはぁ!?」 「だからっ!えっちしながらキスしてほしいの、その方が気分も上がるし、良いかなって……」 「俺はお前の恋人じゃないんだぞ!?」  先ほども一度レイラの方から口付けられたが、べつだんイオニアは気に留めなかった。慣れた彼女のことだから挨拶程度の意味かと思ったのだ。  しかし、今回はイオニアに強請っている。  イオニアからの接吻を求めているのだ。 「お……俺はあんまりキスの経験がない」 「なんで?」 「なんでって………」  説明するまでもないが、娼館には合体しに行っているのであって恋愛をしに行っているわけではない。娼婦たちとてその辺りは分かっているので、客たちからのリクエストがなければ接吻なんて交わさないわけで。  頭の中で理論立てたところで説明するのは憚られるので、とりあえず情けない姿は見せまいとイオニアはレイラの唇に自分の唇を合わせてみた。  勢い余ってガチッと歯がぶつかる。 「………っ痛!?」  慌てて顔を離すと、レイラがぽかんとした顔をして吹き出した。いつも魔女のように厳しい表情をしているくせに、笑うと目尻が下がって少し可愛い顔になる。それもまた腹立たしい。 「キスの仕方が分からないの?」 「わ、分かる。分かるけど、お前が相手じゃ、」 「教えてあげるわ、イオニア」  下から伸びてきた細い腕がイオニアの首へと回される。そのままグンッと引かれれば、イオニアの目と鼻の先にレイラの顔があった。  ピンク色の唇がゆっくりと開く。 「………んっ」  イオニアの頭に何度目かの小宇宙が広がった。  とろりと脳が溶け出すような感覚を覚える。 「あっ、やばい、レイラ……!」  まるで生き物のように柔らかな舌がイオニアの口の中でうごめく。だけれど不快ではなくて、初めての気持ち良さにイオニアは戸惑った。  そして、その戸惑いは如実に身体へと伝達され。  イオニアは呆気なく暴発した。
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