09 最終話

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09 最終話

「あぁー女が抱きてぇな……」  知らず知らずのうちに溢れた独り言を拾って、隣に寝転んだ娼婦はプクッと頬を膨らませる。 「失礼な人ねぇ!娼館に来たくせに何も手出ししないのは貴方でしょう。挙げ句の果てにそんなこと言い出すなんて舐めてんの!?」 「いや、なんかちょっと違うというか……」 「じゃあ他の娼婦とチェンジしなさいよ!悪いけど時間分のお金はもらうからね。そんなんだから魔術師は陰気臭いって言われるのよ」 「はぁ………」  魔術師全般を敵に回すような発言を聞いて項垂れつつ、求められた金を払って店を出る。あんなに大好きだった娼館に、癒されなくなっていた。  いったい全体どうしてか?  なんとなく理由は分かる。偽りの笑顔を向けて演技のように喘ぐ娼婦とは違って、イオニアは本当の女を知ってしまったのだ。  互いの身体を擦り合わせて良い場所を探り合う。そうして徐々に高めていけば、最高に気持ち良い最後を迎えることが出来る。 「………なんて間抜けなんだ」  よく聞く言葉を借りると、策士策に溺れる。  この場合は「淫紋術師、淫紋に踊らされる」とも言える。  川辺に座り込んで涼しい風に吹かれながら、この街ともそろそろお別れかもしれないと考えた。エバンズという場所に特に縁はなかったが、小さいながらに優しい街の人々や活気のある雰囲気が好きで、いつの間にか三ヶ月もの間住み続けてしまった。  レイラとあんなことになってしまった手前、アドルセンの宿に寝泊まりするわけにはいかず、逃げるように金だけ置いて出て来た。  そこからはや一週間。  何をしてもあまり楽しくはない。  あれほど追い掛けていたピエドラ王女の最新情報も今となってはどうでも良いし、娼館に出向いても気持ちが動かなくなった。若くして不能になったのではないかと恐れたが、あの日のことを思い返すと俄然元気になる。 「俺は最低だ………」 「そうね、アンタは最低よ」  ゴロンと寝転んで呟くと、被さる声があった。  慌てて起き上がって声の主を探す。  イオニアの後ろには両手を腰に当てたレイラが仁王立ちで立っていた。急いで出て来たのかエプロンを巻いたままで、眉間に寄ったシワは彼女の怒りを示していた。 「こんにちは、ヤリ逃げ男。ご機嫌いかが?」 「っな、ヤリ……!?」 「だってそうでしょう?あんなに何度も無礼に中出しておいて、起きたらとんずらなんて良い度胸してるじゃないの」 「言っただろう!淫紋が出ている間は妊娠しない。命を賭けても良い。これ以上何を求めて、」  グイッとフードが引っ張られて、青い空を背に満面の笑みを浮かべるレイラの顔が目に映った。もう術が解けて一週間も経っているのに、どうしてか心臓がうるさくなる。  瞬きをする間にイオニアの唇は奪われた。  心臓の音は隠せても、赤くなる顔は隠せない。 「ねぇ、ドキドキした?」 「………っ!」 「女手一つじゃ宿の経営も大変なの。貴方のせいで三日ぐらいは筋肉痛になっちゃったわ。悪いけど暫くは働いてもらうからね」 「おいコラ、俺はまだ何も……!」 「そうしたら、もっとドキドキすることさせてあげる」  イオニアはくらりと目眩を覚えて再び草の上に寝転ぶ。淫紋の誤使用はとんでもない結果を生んだ。神に感謝していた淫紋術師は、心の中で恨み節を唱え始める。  初めての恋は、イオニアには強敵で。 End. ◇ごあいさつ これにて完結です。ご愛読ありがとうございました。 シチュエーションボイスのコンテストに応募するために勢いで書いたので、短い上に品のないお話でした。お目汚しを失礼いたしました。 大人向けの話は夜に更新したかったのですが、予約をミスっており今朝一話アップしたのも反省…… 余談ですがイオニアが淫紋で翻弄したかったピエドラ王女は、この後連載するお話に出て来ます。悪役令嬢が魔王の夜伽になる話で、今連載してるのが終わったら載せる予定です。 なんだかスケベ続きで自分の語彙力の無さにショックを受けていますが、誰かの暇潰しになれば幸いです。
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