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私が小学校4年生の時の思い出といえば、当時流行っていたアニメの「恐竜星人」と、秋に通学路をパニックに陥れた「変態おじさん」だ。
特に強烈なインパクトを残しているのは、やはり変態おじさんだ。
通学路に軽トラを停め、その荷台で下半身を露出して仁王立ちになっていた変態おじさん。すぐに近所の住人によって通報された。
しかし警察が来るよりも先に変態おじさんは動いた。
登校中の私の前に、荷台から飛び降りて立ちふさがったのだ。
「お嬢ちゃん可愛いね、今からおじさんと遊ぼう!」
私はパニックだった。何が起こったのか分からなかった。せっかくランドセルに備え付けられた防犯ブザーすら、作動させることが出来なかった。
そんな私と変態おじさんの前に、ひとりの人間が割って入った。
「おい変態! 子供に手ぇ出すな!」
「んだ、てめえ!!!」
私を助けてくれたのも、おじさんだった。私は見ていたアニメのヒーロー、恐竜星人・トリケラさんの姿を重ねてしまった。
トリケラおじさんは、力強く変態おじさんを押さえつけて、私から遠ざけていく。変態おじさんは力では勝てないと思ったのか、すぐにトリケラおじさんの手を叩いて、走り去っていった。
トリケラおじさんは、それを見送ると、すぐに私に駆け寄った。
「お嬢ちゃん、大丈夫か?」
「うん……」
「あ、ごめん、おじさんのことも怖いよな」
「うん……」
「えっと、大丈夫だよ、おじさんは今から遊ぼうなんて言わない。そうだな、じゃあ、10年後におじさんと遊ぼう」
「あそ……ぶの?」
――その時だった。
不意に現れた警察官が、トリケラおじさんを羽交い締めにした。私は驚いて、思わず頭の中の配役名を叫んでしまった。
「トリケラさん……!」
それを聞いた警察が首を傾げる。そしてトリケラおじさんのズボンをずらして下着を確認した。するとトリケラおじさんは、偶然にも恐竜・トリケラトプスをモチーフにしたトランクスを履いていたのだ。
「貴様! この子に、こんなパンツを見せつけたのか!?」
「違います! 誤解だ、俺はこの子を助けたんですって!」
「じゃあトリケラさんって何だよ!?」
「知るか!」
*
――あれから、12年が経った。
私の隣にいるおじさんは、今でも警察が苦手らしい。
そう。私達は約束通り10年後に遊ぶことになったのだ。
私はずっとずっと大人になった姿で。
トリケラおじさんは、前よりも少しだけ、おじさんになった姿で。
そして私は今や、トリケラの嫁なのだ。
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