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お泊まりの誘い -1-
「………」
上から見つめてくる篠原のその視線が、熱を帯びているのがわかる。
とても戸惑いながら、“好きで仕方ないんだ”、“気持ちをわかってほしい”と、ただ強く、ひしひしと聞こえてくる。
「………」
コンビニの明かりに照らされ、ただ静かに。何もない道端に佇む二人。
とてつもなく長い時間のように肌が感じて、だけど実際には……まだバイト先を出ておそらく20分ほども経っていない。
「……帰ろっ…か」
沈黙を割くように、深月が口を開いた。
そして片足を踏み出そうとした瞬間に、留めるように篠原が立ち塞がる。
「待って、深月くん。
あのさ…けど……
さっきの男…まだ、いるんじゃないの?
深月くんの家、あの近くなんだろ…?」
「……………」
また沈黙。
ーーーわからない。
何がわからないかって、須藤が、あそこで自分を待ち伏せていた理由が。
関係を持っていたとき、会うのは必ず須藤の部屋だった。
記憶を辿る。
須藤から呼び出しのコールが鳴るたび、急ぐ心と共に駆けるように向かっていたあの頃の自分を思い出すと、情けなくて、頭を抱えたくなるけれど。
確か、一度だけ。
ーーー教えたことがあった。話の流れだったかどうかは定かではないが。
”xx駅のコンビニの近くのクリーム色のアパート、あそこに住んでるんだ”、と。
「ふぅん」と、素っ気ない返事で覚える気もさらさら無いという興味の無さが伝わり、言っても言わなくても…その会話に大した意味もなかったんだ、と忘れるよう言い聞かせた記憶がよぎる。
そんな須藤がどうして。
なぜあんな、何もないところで、アスファルトの上にタバコの吸い殻を何本も擦り潰して。
俺のことを待っていた……?
わからない。
……どうせ、暇潰しにすぎない。
あの男は、そんな人だ。
別にもう、理解らないままでいい。
とにかく今はもう、会いたくない。顔も見たくない。
「……うん。
俺、もうちょっと時間潰してから帰るよ。
だからさ、篠原、先に帰りなよ?
もう遅いし……篠原明日、学校じゃないの?
変なことに付き合わせてごめ…」
「深月くんっ‼︎」
突然大きな声で名前を呼ばれ、深月はビクッと身体を震わせた。
「そんなのダメだよ、危ないよ。もし何かあったら…どうするんだよ?」
「何もないって、大丈夫だよ…篠原、心配しすぎだって…」
「深月くんが大丈夫でも、俺が大丈夫じゃないんだよっ‼︎
……あの、っあのさ。え、えっと…その。み、深月くん。
うっ、うちに……来ない?」
「…………えっ?」
額に汗が滲んでいる。初夏といえこの時間帯は夜風が少し冷たいというのに。
ひんやり感じる空気にそぐわないその、体内からふつふつと発せられている熱気。
顔を真っ赤に染めて吃りながら篠原は続ける。
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