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初・帰宅デート -2-
「へぇ……深月くん、すごいなぁ。
俺だってアパートに1人だけど、外食かいつもコンビニで買って帰ったり…だよ」
(………へぇ。篠原も、一人暮らしなんだ。)
なんだか意外かも、そう思いながら続ける。
「外食もコンビニも、飽きるじゃん?地味に高いしさ。
同じ値段で材料たくさん買えばもっと豪華なもの作れるよ」
「うーん確かに…。
俺、家で作るって言ったら…インスタントラーメンくらいかなぁ」
はは…と苦笑いの篠原。二十歳にもなって唯一作れるものがそのレベル、だなんて自分で言っててなんだか情けない。
「……そんなの料理なんて言えないよ。
ちゃんと野菜とか満遍なく食べないと、栄養不足でお肌ガサガサになっちゃうって」
くわえて深月は、同年代の男子と比べても美容意識が高い方だった。
実家にいた幼い頃から、BAのチーフとして働く美のプロフェッショナルである母からは口癖のように「男の子だって綺麗な肌じゃなきゃモテないわよ」と言われ美肌に関わる知識を教え込まれた。
化粧水やら乳液を使ってスキンケア…とまでは流石に女子じゃあるまいしと敬遠していたが、母の教えを守り、水分と緑の野菜をしっかり摂ることを心がけ、ビタミン類のサプリを毎朝欠かさず飲んでいる。
男だって、やっぱり綺麗な肌に越したことはない、それだけは間違いなく自信を持って言える。
「そっかぁ…。すごいな深月くん、なんていうか、努力家でかっこいいよ」
「いや、そんな褒めるほどじゃ…」
「本当すごいって。
そっかぁ…だから、深月くんってそんなに綺麗なんだね。
俺、深月くんの顔ほんと好きなんだよ。
肌だってさ、白くてツヤツヤじゃん?いつもバイトの間、すれ違う時とか見ていて。
……触りたくて仕方なくてさ」
「…………」
(なんだこのほめ殺し…というか、なに、これって俺、まさか口説かれてんのかな?
触らせろってこと?意外と大胆なやつだなぁ。
……なんて答えればいいの?)
突拍子のない篠原の言葉に顔を赤らめて黙り、言葉を探す深月。
……その時だった。
「…………!」
数メートル先、道端の外灯の下。
電柱横の壁に寄りかかる人影が目に入り、深月は思わず足を止めた。
そこに立つ、相手の顔を見た瞬間。
胸の鼓動がドクンッと鳴る。
「……………」
「深月くん?どうしたのーーー…?」
突然立ち止まった深月に、篠原は足を止めて不思議そうに振り返る。
「須藤……先輩…」
二人の姿に気づいたその男は、口に咥えていたタバコを地面に落とし靴でグシャリと踏み潰した。
何度も、嗅いだことのある…知った銘柄の煙草の煙。
消したい記憶の中のその香りが、深月の鼻をつく。
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