深月の過去 -1-

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深月の過去 -1-

「はぁ…はぁ…っ」 早足で来た道を戻り、角を曲がる。 コンビニエンスストアの明かりが目に入ったところで、深月は足を止めた。 「み、深月くん……大丈夫…?」 恐る恐る問いかける声に、深月はハッとして強く掴んでいた篠原の腕をパッと離した。 「あ、あの。ごめん……。つい、ムキになって」 視線を上げると、篠原はとても心配そうな瞳で自分を見つめている。 不本意とはいえ、あんな場面(シーン)を見せてしまったのに。 ……きっと引いてるよな、そう思い俯く。 「みっともないとこ、見せちゃったな…。 ほんと、ごめん……」 「え、いやっ…そんなこと……。」 気まずそうにしつつ、篠原は、深月の顔を覗き込んだ。 「あのさ、深月くん。 さっきの、もしかして………元カレ…?」 唐突な質問にどきりとしてしまう。 「え、あ……いや。 えっと。違う。……彼氏、じゃない。」 「えっ、けど…………それじゃあ…」 「………………」 少し黙って、顔を上げた。 篠原の表情を見つめる。“知りたくて仕方ない” と顔に書いてある。 同時にとても、泣きそうな顔をしているのに驚く。 「……深月くんが言いたくないなら、無理はしなくていいよ。でも、俺、気になるんだ。 だって、深月くん。俺、そんな深月くんの悲しそうな顔……見ていたくないから……。」 「……………」 「だから、聞かせてくれないかな…? 深月くん。お願いだよ…」 「……………」 ーーー正直なところ。 もしかしたら、感覚で。 男の自分に、篠原は興味本位で“付き合って欲しい”なんて、勢いに任せて言ってきたんではないか?と、心の奥底で疑っていた。 試したりするつもりなんてなかった。 だけど、さっきみたいな修羅場を見てーー…自分が本当に、男相手とを持っているようなやつだとわかって、それでも。 引いたりすることはなく、むしろその先へ…もっと、きちんと。自分と関係を()とうとしている。 (篠原、そんなにまで、俺のことを………?) 「その。須藤先……、さっきの(ひと)、はさ。 俺の大学のサークルの先輩で。 あっ、いや元、か。もう俺、そのサークル辞めたから…」 須藤の顔を思い出す。 意地悪く、笑ったその顔を。やんちゃな表情で煙草を咥えて、偉そうに自信満々な瞳で、ベッドで手招きする仕草を。 その手で、口で、触れられた記憶。 好きで好きでしかたなかった、つい、この間までの自分。 「すごく、誰からも人気のあるひとで。 男からも、女からも……、憧れてるやつたくさんいたと思う。」 自分もその中の1人だったから。 「少し……相手にしてもらって、嬉しくなっちゃって。遊びでもいいから…って、それで、バカみたいに。都合の良い相手、演じてた」 いつまでも続けられるはずがなかった。そんな器用でもないし、まず、何もかもが初めてだというのに…そんなに上手く立ち回ることなんてできるわけがない。 そんな自分に、気の多い須藤は容赦無く……わざとらしく、ほかの人といちゃついて見せて、嫉妬を煽り暗い穴の中へ突き落としたかと思えば、夜になると都合良く自分を呼び出す。 好きでもないくせに、まるで自分だけの物を扱うみたいに荒々しい手つきでふれて、そしてその時だけは、嘘みたいに甘い愛の言葉を囁く。 “好きだぜ、。” いつも、須藤に呼ばれるとき、自分の名前がまるで自分のものではないような気がして。 彼に抱かれている自分は、まったく違う別人のような気がして……。不安で、怖くなって。  たくさん求めた。 だけど、応えてもらえる筈もなくて。 期待して、肩透かし。優しくされたと思ったら、今度は冷たくあしらわれて。 その繰り返し。 わかっているのに…… そんな無益な時間を待ち望んで、惑いながらも絆されてしまって。 悲しくて、悔しくて。 情けなくて……もう、疲れてしまった。
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