犯人はお前か

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犯人はお前か

顔見知りのおじさんは俺に席を譲った。落ち着け、ここに座って何があったか話せ。そう言って隣の家のお兄さんは背中を擦ってくれた。大家さんの奥さんは温かい飲み物を俺の前に置いてくれた。 やっと落ち着いて握ったままの回覧板をテーブルの上に置いた後だよ。管理人室に来る直前の話ができたのは。 別に俺は悪いことしてねえし。助けを求めた奴を家にかくまってやった。それだけの話だ。 でもなんかさ。なんか、こう、違和感みたいのが、モヤモヤするんだよ。 その理由がどうしても、どうしてもわかんない。 俺の家にいる奴をどうすればいいか考えて欲しいって言おうと思った時だ。テレビからニュース速報が流れてきた。 さっきやってた通り魔事件の続報だった。 きっと不安で危ないと思ったから住人たちはこの部屋に集まったんだ。そう思い浮かんだ。 画面に、ぱっと写真が映し出された。 一人の男。普通のサラリーマン。まさかこんな人が? って言える普通の人。 「犯人は×××××××」 俺はこの男を知っていた。 「こいつだ! 俺んちに来たの、こいつだ!」 俺は通り魔を家に上げていた。 後で考えれば変なとこがいくつかあったんだ。 季節は冬。寒いのにシャツ一枚。鞄にはスーツの上着が入っているのに? それに大人数がいた管理人室の方が安全だろ? 本当に通り魔に襲われるのを恐れていたなら、一階の管理人室のインターホンを押すはずだ。助けてくれ、と。 あいつは俺が一人でいた家のインターホンを押したんだ。 寒気がした。一瞬でぞぞっと悪寒がかけあがってきた。 もしかしたら俺は刺されていたかもしれないと。殺されていたかもしれないと。 そう思った瞬間、力が抜けた。 「おい、大丈夫か!」 誰かが心配して肩を揺さぶった。しっかりしろと、温かい手で俺を支えてくれた。 ここに逃げて来てよかった。俺は実感したよ。 ぴーんぽーん。 誰かがインターホンを鳴らしていった。 ぴーんぽーん。ぴーんぽーん。 鳴らしては去っていった。 それに俺らは気づかなかった。 何人もいたのに、そこには誰かが探す相手はいなかったから。 だから、そのインターホンの音が耳に届いたのは、ただ一人しかいなかった。 ぴんぽーん。
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