鳴る

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鳴る

俺らはどうしたか。 黙って扉を閉めた。 だってそうだろ? もう救いようもないし、助けられない顔してんだよ。イッチャッテル顔。 俺らは玄関に戻って戸を閉じた。今度は鍵をかけないで。そんで警察が来るのを待った。 後で知ったんだけどさ、そいつ、初犯だったらしいんだ。理由はわかんねえけど、あいつは初めてやらかした。 多分なんだけど、そいつ、やらかしといて頭パニックになってたんだろうって思うんだ。そうじゃなきゃ、あんな、人んちで自殺するような真似しないだろ。 そうしとけや。 俺さあ、まだそのアパート住んでるんだよね。引っ越しする金もないし、ここ、居心地良いから。 でもさすがにトイレだけはご近所さんのを借りに行く。理由はみんな知ってるから、おうキレイに使ってけやー、で終わるんだよ。いいだろ、別に。だってあんなのを見ちゃったんだから。 時々な。インターホンが鳴って、助けてくれって泣き叫ぶあいつが来るんじゃないかって思う時がある。白いシャツ着て、鞄の中には血濡れの刃物とスーツの上着を詰め込んで。 また、インターホンが鳴る気がするんだ。 そういう時はさ、こう言うんですよ。 「誰もいませんよ」 俺は今度こそ居留守を使う。 あいつの顔は画面越しでももう見たくないな。 そういう、話。 回覧板の一番下にはこういう項目が追加された。 「インターホンのスイッチを綺麗に掃除しましょう」 誰も来ていないはずなのに、俺のアパートの全部の家のインターホンには誰かが訪ねて来た形跡が残されていた。 スイッチには赤い指の跡。 管理人室のパソコンのフォルダには誰も写っていない画像が一番ずつ。 誰かが来たんだ。 誰かが。 足のない誰かが。 通り魔は、誰にあやまっていたんだろう。 今日も、インターホンが鳴らされる。 被害者の遺体からは人差し指だけが見つからなかったらしい。 ぴんぽーん。 その意味は、一本の指にとって「誰かいますか」ではなく「ここにいるだろ」だったのかも知れない。
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