雌蛇ヶ池

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雌蛇ヶ池

「あわわわ、大変じゃが!」 右に泳いだり、左に泳いだり、あっちに行ったり、こっちに行ったり。何だか池の中が騒がしい。 「ジャガ(しん)さま、そんなに慌ててどうしたんですか?」 「俺さまの(かん)ピューターによると、今年の夏は水不足になるじゃが〜」 「へぇ~、それで?」 「もしも池の水がなくなったら、みんな()からびてミイラになってしまうじゃが〜」 「なるほど。だけど、水が減ったらミイラになる前にカラスに食べられちゃうんじゃないですかね。奴らは雑食で何でも食べます。特にジャガ神さまは乾燥で良い感じに熟成されて旨味が増すかも?」 「黒い鳥は嫌じゃがー、干物も嫌じゃがー!」 ジャガ神とその仲間は雌蛇(めじゃ)ヶ池で、のんびりと暮らしている(ふな)である。しかも勝手に池の(ぬし)、ジャガ神を名乗るちょっと変わり者。 「水不足も心配ですが、この池にブラックバスが捨てられたようです」 「ひょえーっ、不法投棄じゃが〜」 ジャガ神は我を忘れ、頭を中心として円を描くように同じ場所をグルグル泳いでいた。 「何しているんですか。ひとりぐるぐるバットですか。とりあえず落ち着きましょう」 「目が回るじゃが〜」 「…。食べられないように注意しないといけません。池の中は弱肉強食の世界です!」 「いやいや、どうにかして奴を追い出さないと池が大変なことになるじゃが!」 「生態系が崩壊するかもしれませんね」 「俺さまたちが池を守るじゃが〜!」 ジャガ神は自称とは言え、神を名乗るだけのことはある。池の平和を願っている優しい心の持ち主なのだ。 「さすがジャガ神さま。もしかして何か良い手があるんですか?」 「な〜んにもないじゃが」 「まあ、そうでしょう。人間たちが奴を釣ってくれたら一番良いんですけどね。そんな都合よく事が運ぶかどうか。釣り糸の垂れている場所まで奴をおびき寄せる必要がありますし…」 「その手があったじゃが!」 「試してみますか?」 ジャガ神は眉間(みけん)にシワを寄せた。 「どうやって釣り糸までおびき寄せるつもりじゃが?」 「もちろん、ジャガ神さまの出番です。奴の口の前に出て人間が垂らした釣り糸まで逃げてください。(おとり)作戦です。そうすれば、食いしん坊は必ずルアーに食いつきます。ジャガ神さまよりもルアーのほうが美味しそうですからね。逃げる途中で力尽きて、ジャガ神さまが奴に食べられても…決してジャガ神さまのことを忘れません!」 「今どきのルアーは優秀じゃが〜。ん、食べられることが前提の作戦じゃが?」 「何事にも犠牲はつきもの。枉尺直尋(おうせきちょくじん)です」 「お前はなかなか腹黒い奴じゃが!」
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