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22.建国祭の朝
季節は初夏。
建国祭当日を迎えた日の朝、ようやく使用人たちが起き出す時間帯。
式典前に警備の最終確認をするため、アレクシスはいつもより二時間早く起床し、寝室にて身支度を整えていた。
侍従に用意させた桶の水で顔を洗い、髭を剃って、頭髪用のクリームで髪を整える。
式典時の髪型はオールバックと決まっているので、いつもよりも念入りに。
服装は黒の軍服だ。
本来ならば皇族は祭事の際、皇族用の礼服を身に着けるのが慣わしだが、将官以上であれば軍服を身に着けてもよいこととされている。
そのためアレクシスは、皇族用の華美な衣装を好まないということもあり、常に軍服を纏っていた。
なお、黒は陸軍の将官クラス以上にのみ許された至高の色で、現在帝国内でこの軍服を着られるのは全兵力百万人のうち、アレクシスを含めて五十名のみである。
身支度を終えたアレクシスが部屋を出ると、廊下はしんと静まり返っていた。
窓からは朝日が眩しいばかりに注ぎ込んでいるが、時刻はまだ六時を回った頃。本館の、しかも二階の廊下を通る使用人はいない。今日は朝食も不要だとあらかじめ伝えてあるので、尚更だ。
アレクシスは一階に下り、真っすぐ玄関ホールに向かった。
そろそろセドリックが迎えに来る頃合いだ――と思っていたら、ホールにはセドリックだけでなく、エリスの姿もある。
(エリス? なぜここに……)
今日は見送りはいらないと伝えてあったはずだが――。
そう思いながら玄関ホールに入ると、アレクシスに気付いたエリスがいつものように挨拶をしてくれる。
「おはようございます、殿下。今日は絶好の祭典日和ですね」と。
そのどこまでも清らかな声と笑顔に、アレクシスはごくりと喉を鳴らした。
理由はもちろん、エリスの笑顔に愛しさが込み上げたから――というのもあるが、それ以上に、緊張していたからである。
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