3.結婚初夜

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 エリスは唇を嚙みしめる。  どれだけアレクシスが怖くとも、恐ろしくとも、アレクシスと結婚した事実は変わらない。  側室とはいえアレクシスの妻になったのだから、務めは果たさなければならない。  怯えている場合ではないのだ。  エリスは覚悟を決め、しゅるりと肌着の肩紐を落とす。  練習したとおり、アレクシスに微笑みかける。 「アレクシス殿下。ふつつかなわたくしではございますが、殿下の妻として、誠心誠意努めたいと思いますわ」――と。  それは今のエリスにとって、精一杯の言葉だった。  最大の勇気を振り絞った結果だった。  けれどそんなエリスを、アレクシスは蔑むように睨みつけた。  まるで仇か何かを前にしたような顔で、冷たく言い放ったのだ。 「ハッ。勘違いするな。俺がお前を抱くのは皇子としての義務を果たすためであって、それ以上でも以下でもない。俺はお前に興味などないし、この先もずっと、お前を愛するつもりはない」 「……っ」  刹那、エリスは言葉を失った。  自分が歓迎されていないことは知っていた。  けれどまさかここまで酷い言葉を投げつけられるとは、誰が想像しただろう。  氷のような冷めた瞳でエリスを見下ろし、アレクシスは続ける。 「お前をここには置いてやる。それが陛下の命だからな。だがもし少しでも俺の気分を害すれば、女であろうと容赦はしない。たとえ妻相手でもだ。よく心に刻んでおけ」 「――っ」 (ああ……どうして。どうしてここまで言われなければならないの?)  そう思っても、口に出すことは許されない。  もしそれを言ってしまえば、きっと自分は殺されてしまうだろう。  賢いエリスは瞬時にそう悟った。  エリスは泣き出したくなる気持ちを必死に心の奥底に押し込め、淑女の笑みを取り繕う。 「わかりましたわ。今後は不用意な発言は控えさせていただきます。全ては殿下の御心(みこころ)のままに」  するとその返事に、意外にも驚いたように眉を震わせるアレクシス。  彼は何かを考える素振りを見せたが、結局態度を改めることはなく、無言でエリスをベッドに押し倒した。 「その言葉、よく覚えておけ」  冷たく吐き捨てて――前戯も殆どせぬままに、アレクシスはエリスの中に、無理やり自身を押し込んだ。
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