4.翌朝

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 ――ヴィスタリア帝国には現在十二人の皇子がいる。  うち成人している皇子はアレクシスを含めて四人だが、いまだに未婚なのはアレクシスだけだ。  クロヴィスに至っては正妻の他に側室が三人もいる。  皇族は一夫多妻が認められているため、二十二歳を迎えたアレクシスが未婚というのは有り得ないことだった。  にも関わらず、アレクシスはずっと結婚を拒んできた。  それは、どうしても結婚できない彼なりの理由があったからだ。  それなのに、まさか自分の知らないところで結婚相手が決まったなどと……。  もはや驚きすぎて言葉が出ないアレクシスの代わりに、側近のセドリックが問う。 「結婚ですか? 縁談ではなく?」 「ああ、結婚だ。側室だがな」 「……お相手は」 「スフィア王国の公爵家の娘だ。王太子の婚約者だったらしいが、異性問題を起こして破談になったと」 「そのような方が、アレクシス殿下の奥方に?」 「そうだ。異性問題云々については、当然先方は隠していたがな。我が帝国相手に隠し通せると思っている愚かさが、田舎の小国らしいというか」 「…………」  開いた口が塞がらないセドリック。  アレクシス本人も、怒りに肩を震わせる。 「陛下に抗議しにいく」――と、全身に殺気を纏わせて。  だがそんなアレクシスを、クロヴィスは冷静な声で引き止める。 「陛下は視察でいらっしゃらない。式の前日までお戻りにはならないそうだ。諦めなさい」 「馬鹿を言うな……! 我が帝国の皇子妃は王女であると慣習で決まっている。それをあのような小国の公爵家……それも、異性問題で破談になった女を嫁にしろと言うのか!?」  アレクシスは激高(げっこう)した。  あまりにも横暴な話だろう、と。     だが、クロヴィスは冷静な態度を崩さない。 「私もそうは思うけどね。いい相手は今まで何人もいたのに、お前が全員追い払ってしまっただろう? 陛下はそんなお前の行動に酷くお怒りだった。つまり、これはお前への罰ということなのではないかな」 「――ッ」  ぐうの根も出ないアレクシスに、クロヴィスは一枚の書類を押し付ける。 「これが相手の情報だ」と微笑みながら。  結局アレクシスはそれ以上何も言い返せずに、書類を雑に受け取ると、不満一杯の様子で執務室を後にした。
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