1.突然の婚約破棄

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 エリスは否定しようと口を開く。「殿下、わたくしは――」と。  けれどそれより速く、エリスの前に躍り出てユリウスに頭を垂れたのは、妹のクリスティーナだった。 「殿下! まさかお姉さまがそんなことをするはずありませんわ! これは何かの間違いにございます!」 「……クリスティーナ」  姉の無実を乞う、美しい妹クリスティーナ。  明るくて、気さくで、誰からも愛される、笑顔の可憐なクリスティーナ。  だが、そんなクリスティーナが自分を庇う様子に、エリスは言いようのない不安を覚えた。 (どうしてあなたがわたしを庇うの……? いつもはわたしに嫌がらせばかりするのに……)  けれど、その間にもユリウスとクリスティーナの話は進んでいく。   「ああ、僕だって最初は間違いだと思ったさ! だが、この男はエリスの秘密を知っていた。僕しか知らないはずの……君の秘密を……!」  ユリウスの怒りと悲しみに揺れる瞳が、エリスを静かに見つめた。 「エリス……僕は君を信じていたのに……。この男は、君の肩に火傷の痕があることを知っていたんだ。それが何よりの証拠だよ」 「……っ!」  その言葉に、エリスは顔を青くしてその場に崩れ落ちる。  身に覚えなどない。男のことなど知らない。ユリウス以外の男に、この傷跡を見せたことは一度もない。  それなのに、いったいどうして……?  絶望の中、「この女を二度と僕の目に触れさせるな」という冷たいユリウスの声が遠くに聞こえ――気が付いたときには、エリスは会場の外に追い出されていた。
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