6.罪悪感

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6.罪悪感

 エリスがヴィスタリアに輿入れしてから、一ヶ月が過ぎたある日の午後。  軍の定例会議を終えたアレクシスは、執務室にてセドリックと共に書類仕事をこなしていた。  アレクシスは二十二歳の若さでありながら、帝国軍を統帥(とうすい)する権限を与えられている。  帝国軍は大きく陸軍と海軍の二つに分かれ、更に軍令組織と軍政組織に分かれ……とピラミッド構造になっているのだが、その全てを束ねる重要な立場だ。  有事(ゆうじ)の際は昼も夜もなく、軍の指揮や作戦立案に明け暮れなければならない大変な仕事である。 「海軍の来期の予算案、数字が大きいな。これではクロヴィス兄上は納得せんぞ。組み直して再提出させろ」 「承知しました。念のため第四皇子(ルーカス)殿下にも確認しておきます」 「新しい兵器の開発はどうなっている。進捗報告の期日はとっくに過ぎていると、技術本部に伝えておけ」 「はい、(ただ)ちに」  アレクシスは淡々と書類に目を通し、可否の判断を下していく。  気になる箇所が少しでもあれば差し戻しだ。    そうして一時間が過ぎたころだ。  三人の側近を引き連れて、第二皇子クロヴィスがやってきた。  約束もしていない突然の兄の訪問に、アレクシスはあからさまに不機嫌な顔を向ける。 「何の用です。俺は忙しいのですが」 「つれないな。まぁいい。手短に話そう」  そう言いながらソファに腰を下ろすクロヴィスに、アレクシスは仕方なく仕事の手を止めた。 「――で、話とは」  アレクシスが問うと、クロヴィスはスッと目を細める。 「お前、初夜以降一度も妃の元を訪れていないそうじゃないか。エリス妃はこの一ヵ月ですっかり侍女たちの信頼を勝ち得たというのに、お前がそんなことでどうするんだい」  その内容に、アレクシスは瞼をピクリと震わせた。
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