6.罪悪感

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 確かにクロヴィスの言う通り、エリスの評判はエメラルド宮の使用人から報告が上がってきている。  相手が誰であろうと優しく接し、誠実で穏やかな性格。驕り高ぶるようなところはない。  下働きのメイドがうっかり花瓶を割ってしまったときも、エリスは真っ先にメイドに怪我がないかを心配したと聞いている。    どうやら、彼女は俺の知る女たちとは少し違うらしい。  アレクシスはここ最近ようやくそんな風に思い始めていたが、けれど結局、初夜以降一度もエリスの元を訪れていなかった。  初夜の罪悪感が邪魔をするからか、アレクシスは結婚前と同じく、皇子宮にて寝食をしているのだ。 「兄上には関係のないことでしょう」  不愛想に突っぱねるアレクシスに、クロヴィスは困った顔をする。 「彼女は噂とは随分違う女性だと聞いているが……。女嫌いもほどほどにしないと、(みずか)らの評判を(おとし)めかねないよ」 「俺の評判など元からよくないでしょう。言いたい奴には言わせておけばいい」 「私はお前を心配しているんだよ。お前が初夜以降一度もエリス妃に会いに行っていないことは、既に宮廷内に広まっている。これ幸いと、娘をお前の妃にしようと考える家臣が出てもおかしくない」 「……は?」 「皆まで言わねばわからんか? 今までは皇子妃は王族であると慣習で決まっていた。だが、今回陛下がそれを覆してしまった。皇子妃は王族でなくてもよいのだ、とな。となると、帝国貴族たちはこぞって娘を我らの妃に据えようとするだろう。お前がエリス妃と不仲となれば尚更だ」 「…………」  クロヴィスはそこまで言うと、ソファから立ち上がりアレクシスに一通の封筒を差し出した。 「これは?」 「我が妹、第四皇女(マリアンヌ)からエリス妃への茶会の招待状だ。来月の宮廷舞踏会の前に、一度顔合わせをしたいと言っていた。お前から渡しておいてくれ」 「…………」  しぶしぶ受け取るアレクシスに、クロヴィスは「頼んだよ」と言い残して去っていく。  アレクシスはその背中を見送って、大きく溜め息をついた。
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