6.罪悪感

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 アレクシスは、この一ヵ月のエリスの行動について考える。  セドリックの報告によると、エリスはこの一月、エメラルド宮で淡々と毎日を過ごしているという。  侍女や下働きの者に当たったり、我が儘を言うようなことはない。宮内府から支給された予算に手を付けることもなく、侍女たちと本を読んだり刺繍をしたり、花を愛でて過ごしているのだと。  最初はエリスによそよそしい態度を見せていたエメラルド宮の者たちも、今ではすっかりエリスに懐いてしまった。  最近は自ら厨房に入り、祖国の料理を作っては使用人に振る舞っていると聞く。 (普通、するか? 公爵令嬢が料理など……)  アレクシスはこの報告を受けたとき、セドリックから「注意した方がよいのでは?」と進言された。  けれどアレクシスは、この調査が内々のものであることを理由に静観することに決めた。 「宮の外に漏れなければ問題ない。好きにさせろ」と。  それはアレクシスなりの罪滅ぼしのつもりだった。  初夜でエリスを手荒に扱ってしまったことに対する罪悪感。それが、アレクシスの心を普段より寛容にさせていた。 (いくら彼女が俺の探している「エリス」と別人だったとはいえ、俺のしたことは到底許されることではない)  アレクシスはクロヴィスから受け取った封筒を見つめ、セドリックに命じる。 「今夜、妃と夕食を共にする。宮に使いを出しておけ」  その言葉に、セドリックはこれでもかと両目を見開く。  けれどすぐに我に返り、「承知しました」と答えると、急いで部屋を出て行った。
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