8.突然の謝罪

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「……え?」  エリスは耳を疑った。  そもそも、いったい何に謝られているのかわからなかった。  それに帝国の皇子であるアレクシスが自分に謝罪をするなど、考えられないことだ。  茫然とするエリスに、アレクシスは繰り返す。 「悪かった。伽のこと……手荒に扱ってすまなかった」 「……っ」 「君はもう知っているかもしれないが、俺は女が苦手なんだ。その上俺は君を"乙女ではない"と誤解していた。……それで、あんなことを」 「…………」 「だからといって許されることではないと理解している。許してほしいとも思っていない。ただ……謝っておかねばならないと。……怖い思いをさせて、本当にすまなかった」  心から後悔しているように、エリスを見つめるアレクシスの瞳。  その眼差しに、エリスは悟る。  この人は、本気で謝ってくれている――と。  だからと言って許せるわけではない。  あの夜の恐怖が無かったことになるわけではない。  それでも、アレクシスは心から悪いと思って、こうして謝ってくれている。  家族にもユリウスにも裏切られてきたエリスにとって、それはとても大きなことだった。 「……殿下、わたくしは……」  けれどそんなアレクシスを前にして、エリスの脳裏に過ったのは懐かしいユリウスの顔で――十年を共に過ごし、支え合ってきたかつての恋人で。  エリスは、唇をぎゅっと噛みしめる。  本当は、ユリウスにこうして謝ってもらいたかった。 「全部僕の誤解だった。本当にごめん。許してほしい」――そう言って抱きしめてもらいたかった。  けれど、もうそんな日は来ないのだ。
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