1.突然の婚約破棄

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 しかも父は、その怪我をこともあろうにエリスの責任にした。  火傷の傷が癒えないエリスを王宮に連れていき、ユリウスに向かってこう伝えたのだ。 「娘が粗相をして肌に傷を負ったため、殿下のお許しがいただけるなら、妹のクリスティーナを代わりの婚約者に据えられればと考えております」と。  その言葉を聞いたとき、エリスは自分の人生はもう終わったと思った。  父に愛されない自分。弟とも引き離され、屋敷では最低限の生活を与えられるだけ。  それだって、自分が王太子ユリウスの婚約者であるからだ。  物を取られたり、隠されたり、そういう小さい嫌がらせで済んでいるのは、自分が王太子の婚約者だから。  もしその地位を奪われたら、いったい自分はどうなるのだろう、と。  けれどユリウスは、涙を堪えるエリスを優しく抱きしめてくれた。 「傷なんて気にしないよ。僕の婚約者はエリスだ。それは変わらないよ。だから泣かないで」と。  その瞬間だった。  エリスが、ユリウスに恋をしたのは。  それからは、エリスは継母に何を言われても、クリスティーナにどんな嫌がらせをされようと、毅然として生きてきた。  自分が生涯ユリウスを支えるのだと。王太子妃になるのだと。  生きる目的を与えてくれたユリウスの優しさに報いたい、と。  毎日毎日、必死に努力してきたのだ。  ――ああ、それなのに……。 (殿下は、わたしを信じてはくださらなかった……)  それがとても悲しかった。  とても悔しかった。  自分は何もしていないのに、愛しているのはずっとユリウスただ一人だと言うのに、その気持ちを信じてもらえないことが、ただただ苦しかった。    エリスは声を殺して泣いた。  灯りもつけず、暗い部屋でたった一人。  慰めてくれるユリウスは、もうどこにもいない。
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